また、アメリカのインフレ抑制法により、韓国の自動車およびバッテリー業界がアメリカ市場で不利益を受けかねないことへの不満が韓国内で高まり、尹政権の対応が不十分だとの批判を生んでいる。そのため、アメリカと歩調を合わせつつも、経済損失を出さない、あるいは最小限にとどめる手腕が尹政権には求められている。
米中の戦略競争やロシアによるウクライナ侵略といった国際情勢の中で、アメリカとの同盟を強化しながら、中国との関係を管理しなければならないとの立場は、実は日本と韓国で共通している。
特に尹政権になって以降、日米韓連携の推進やインド太平洋戦略の策定に見られるように、韓国の外交路線は日本のそれとほぼ軌を一にしており、抱える課題の多くを共有するようになった。10年ぶりに日韓関係の改善が進んでいる今、日韓両国は互いの外交戦略を共有しつつ、共通の課題に対して協力できる機会にも恵まれたのである。
国際社会の平和と繁栄に向け日韓でできること
尹大統領自身、3月の訪日時に慶応大学での演説で、日韓両国が、「自由、人権、法治という普遍的な価値を基盤とする自由民主主義国家ということは、それ自体が特別な意味を持ちます。それは、両国が単純に国際社会の規範を守り、互いに尊重することを超えて、連帯と協力を通じて国際社会の平和と繁栄という共同の目標に向かってリーダーシップを発揮しようとしていることを意味します」と語っていた。
今後は例えば、両国がそれぞれのインド太平洋戦略を推進するにあたって、共に重視するASEANや太平洋島嶼国を対象とした政策では、役割分担や協働することを積極的に検討していくべきであろう。
一方、近年関心が高まっている台湾海峡の平和と安定に関する両国内の議論からは、対中政策をめぐる認識差や温度差が小さくないことがうかがえる。インド太平洋におけるより幅広く、かつ深みのある協働を可能にするために、日韓はまず互いの戦略や認識について理解を進める戦略対話を活性化すべき時にきている。
(西野純也 慶應義塾大学法学部政治学科教授・朝鮮半島研究センター長)
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