【連載第4回:中国を取り巻く国際秩序】
本特集ではこれまで、独自の情勢認識に基づいて東アジアの国際秩序を変えようとする中国の外交戦略と、その反作用としての日本、ASEAN諸国、韓国の対応を論じてきた。
先行する3本の論考から浮かび上がったのは、経済的影響力を梃子として国際社会に独自の言説を刷り込み、「あるべき秩序」の概念そのものに揺さぶりをかける野心的な中国外交の姿である。
だが中国国内を顧みれば、コロナ禍を脱して徐々に経済回復すると見込まれるものの、直近の経済指標は予想を下回り、コロナ感染者数の再拡大も懸念されている。さらに4月には都市部の16~24歳の失業率が20.4%と過去最高を記録し、雇用の悪化が社会不安を誘発する可能性すらある。
国内に課題が山積するなか、中国が積極的な外交を展開する意図をどう理解するか。本稿では、3期目に入った習近平政権が描く外交戦略の論理を展望する。
理論武装がもたらす外交の硬直化
振り返ればこの数カ月、中国の大使レベルの外交官が硬直的な発言をする事例が相次いだ。
例えば、4月には盧沙野駐フランス大使がウクライナやバルト3国などの旧ソ連諸国について、主権国家であることを認めた国際的合意がないとして当該国の強い反発を招いた。
日本では、4月末に呉江浩駐日大使が台湾有事を日本の安全保障と結びつけるならば「日本の民衆が火の中に連れ込まれる」と述べ、これを5月の衆議院外務委員会で林芳正外相が「きわめて不適切」と批判した。
6月上旬には崔天凱元駐米大使がシンガポールの英字紙「ストレイツ・タイムズ」の取材に対して、米中対話ができないのはアメリカ側の意識が弱く、問題行動を起こすからだと主張した。
また、韓国では邢海明駐韓大使が李在明「共に民主党」代表との会談で、中韓関係の悪化は「韓国の責任」であり、米中対立についても「アメリカが勝利し、中国が敗北すると賭けるのは誤った判断だ。後で必ず後悔する」などと発言した。韓国外務省はこれを「外交慣例に反する非常識で挑発的な発言」として正式に抗議した。
これらのタフな主張に共通する特徴は、特定のイシューにおける中国国内でのナラティブ(語り)をそのまま海外に発信したことにある。結果的に中国は相手国からの批判を招いており、外交としては悪手であった。ではなぜ、こうした硬直的なナラティブを、外交のプロであるはずのシニア外交官が繰り返すのか。
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