これまでも中国の外交官が繰り返す攻撃的な発信が「戦狼外交」と呼ばれ、物議を醸してきた。
こうした発信が急増した要因の1つに、2019年に元党中央組織部副部長である斉玉が外交部党委員会書記に就任して外交部内の管理を強化したことが指摘されている。
斉書記の主導により外交部党委員会は2019年に「主題教育領導小組」(テーマ教育を指導する組織)を新設、部内教育プログラムを「月次計画、週次手配、日次進捗(月计划、周安排、日跟进)の作業メカニズム」のもとで実施してきた。この部署は外交部の各組織と在外公館に対して、それぞれの状況に応じた指導を強化することで「誤差を適時に是正し、『時差』『温度差』をなくす」ことを目指す、と位置付けられている。
つまり4年余りにわたる党主導の教育プログラムの結果として、国内の解釈をそのまま発信する外交官の増加が大使レベルにまで及んだと考えられる。
また、この枠組みのもとで、2023年4月上旬には「新時代の中国の特色ある社会主義思想をテーマとする教育動員部署会」というプログラムが実施されており、在外公館においてイデオロギー教育が強化されたタイミングであった。
国際的な「ディスコースパワー」の競争
中国外交におけるナラティブを本質的に理解するうえで重要なのが、習近平政権が追求する「国際的なディスコースパワー(国際話語権)」の概念である。「ディスコースパワー」とは、発言する権利とその発言を相手に受け入れさせるパワー(権力)を含む言葉である。
昨年、地経学ブリーフィング(「中国の民主主義と人権の「認知戦」に要警戒なワケ」)で指摘したように、習政権は自らの主観に基づき、今の中国がもつ総合的国力と国際社会での中国の立場に見合うディスコースパワーの形成を目指している。この概念を支えるのは、国際社会におけるナラティブの影響力は国力(パワー)とリンクするとの認識から、中国がより強くなることで自らのナラティブへの支持を獲得できるとの自信である。
だが徐々に単に自国のナラティブを強く打ち出すのでなく、相手国に受け入れやすいナラティブを選択的に発信する、以前より洗練された手法になりつつあった。たとえば習政権が「多極化」や「内政不干渉」といったキーワードをしきりに強調するのは、アメリカをけん制すると同時に発展途上国・新興国の支持を得やすいナラティブの浸透を図っている。
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