6月上旬にシンガポールで開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)では、オースティン国防長官と李尚福国防大臣の会談は中国側の拒否によって実現しなかった。その原因について中国側はアメリカ側に完全な責任があるのだと強調し、2018年から李国防大臣がロシア制裁違反を理由にアメリカの制裁対象になっていることを挙げた。
だが中国は、5月31日に北朝鮮が行った衛星発射実験を協議する国連安全保障理事会緊急会合では、北朝鮮を擁護して「一つの当事者に指をさしてすべての責任を負わせることが建設的なのか。明らかに違う」と主張した。この論理に則れば、米中対立についても米中双方に責任を求めるべきである。
習政権がいかなる安全保障問題についても「アメリカこそが問題の根源」と主張するのは、アメリカを「悪役」に仕立てることでアメリカに違和感を有する国を惹きつけるための論法である。だがその先に国際秩序の再編までを見通したとき、反米感情に基づく求心力には限界がある。
虚実ないまぜのナラティブへの備えを
習政権はそれを自覚しているがゆえに、国際情勢をどのように解釈するかという「認知」を誘導し、国際社会の「正しさ」の定義、すなわち価値規範をすり変えることを試みている。ディスコースパワーの不足を改善するという防衛的な姿勢から、より積極的に「正しさ」の獲得に動いていると言ってよい。
たとえそれが虚実ないまぜのナラティブであっても、一部の国内アクターが共鳴して世論が混乱することはどの国でも起こりうる。日本社会もまた、情報リテラシーを高める必要に迫られてている。
(江藤名保子/地経学研究所上席研究員兼中国グループ・グループ長)
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