「法の支配」を無視するトランプ米大統領に「10年で対米黒字ゼロ」を提案した日本はどこまで抵抗できるか。

経済交渉に「品位」とか「質の高さ」が求められるなら、トランプ関税をめぐる米政権の姿勢は最悪の部類に属するだろう。
彼らの要求は、フリーライド(タダ乗り)するな、アメリカを頼りにするなら金を出せ、対米黒字をなくせ──。日本側は「10年で対米黒字をゼロにする」などという対案を非公式に示しているものの、アメリカの反応はいま一つだという。
トランプ大統領は7月7日、日本に対する関税率を当初表明していた24%から25%に引き上げると発表。同時に事実上の交渉期限を8月1日に延長した。ただ、事態がどう展開しようと、不良少年の「かつあげ」に似たトランプ流ディールの質の低さは強く印象に残る。
同じ通商交渉でも、以前の米側はもう少し丁寧できめ細かい要求をしてきた。それはこれまでの経済交渉に関連した公文書を読み返せば確認できる。
例えば1989年から1990年にかけて行われた日米構造協議(SII)。情報公開法で入手した公電や議事録などから再現すると、協議開始時にはこんなドラマが展開されていた。
「優先国」指定で日米間の緊張高まる
1989年5月26日、アメリカの首都ワシントンに駐在する日本大使館員が米政府の呼び出しを受けた。その前日、ブッシュ・シニア政権は日本をスーパー301条の「優先国」に指定。一定期間内に市場開放交渉で成果が出なければ制裁できるというこの条項の適用により、日米間で緊張が高まっていた。
大使館員が行ってみると、国務省、財務省、米通商代表部(USTR)などの幹部がずらりと顔をそろえていた。手渡された文書にはこう書かれていた。
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