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まさかの「NATO離脱」も? スロベニアが国民投票を実施/日本人が知っておくべきトランプ時代の安全保障をめぐる欧州各国の「温度差」

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アメリカ・トランプ大統領の防衛費増額要求を受けて、NATOの欧州加盟国内でも大きな温度差が見え始めた(写真:Bloomgerg)

中東欧にある人口210万人の小国スロベニアで、大変興味深い動きが生じている。ロベルト・ゴロブ首相が7月4日、北大西洋条約機構(NATO)からの離脱の是非を問う国民投票を行う方針を示したのだ。スロベニアは2004年、チェコやハンガリー、ポーランドなどと欧州連合(EU)に加盟、同時に、NATOにも加盟したという経緯がある。

注目の国民投票、その中身とは?

国民投票は、正確には、防衛費を2030年までに名目GDP(国内総生産)比3%に当たる約21億ユーロに引き上げるかどうかを問う内容のものである。法的拘束力を持たず、あくまで参考投票となる。ただしこの動きは、アメリカのドナルド・トランプ大統領からの突き上げを受けて、欧州でにわかに広がる軍拡ムードに一石を投じるものになるだろう。

もはや、NATOが念頭に置く敵国がロシアであることは自明の理だ。一方、欧州は東西南北に広い。ロシアと国境を接する国もあれば、隔てている国もある。隔てている国にとって、ロシアとの交戦リスクは極めて小さい。ロシアにも欧州全土と戦火をまみえる気などないだろう。要するにNATOの費用対効果が問われるわけだ。

6月のNATOサミットで、加盟国は防衛費を名目GDP比で5%(正確には純粋な防衛費は3.5%で、残り1.5%は関連費用)に引き上げることで合意に達した。欧州の負担額を引き上げたいトランプ大統領は意気揚々と会場を後にしたが、一方でロシアによる侵攻のリスクが小さい国にとっては、防衛費の引き上げなど無駄な出費にほかならない。

欧州を中心にロシア、トルコ、新興国のマクロ経済、経済政策、政治情勢などについて調査・研究を行うエコノミストによるリポート

ここでスロベニアの地理を確認すると、北でオーストリア、西でイタリア、東でクロアチアおよびハンガリーと国境を接している。南は地中海に面し、港町ピランはアドリア海の中でも風光明媚な都市として知られる。言い換えれば、ロシアがこうした立地のスロベニアに侵攻した場合、そのときはすでにEUの領土の一部をロシアが支配下に置き、EUの枠組み自体が破たんしていることを意味する。

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