NATO首脳会談でわかった欧州が直面する現実(下)アメリカの引き留めには成功したものの軍事費増が経済を圧迫

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トランプ大統領とルッテNATO事務総長
写真撮影後に話すトランプ大統領とルッテNATO事務総長。「アメリカ抜き」は回避できたが……(写真: Simon Wohlfahr/Bloomberg)
NATO首脳会談でわかった欧州が直面する現実(上)はこちらをご覧ください。

欧州ではウクライナ戦争をきっかけに「ロシア脅威論」が急速に高まっている。そんな中、2025年5月15日にロンドンの国際戦略研究所(International Institute for Strategic Studies:IISS)が衝撃的なレポートを発表した(Defending Europe without the United States: Costs and Consequences)。

同報告は「ロシアのウクライナ侵攻、ロシアが欧州諸国に仕掛けるハイブリッド戦争、トランプ政権の軍事的要求によって、欧州の政策決定者はアメリカへの依存を低下させ、極端な場合、アメリカ抜きのNATOを準備する必要性を検討することが不可欠である」としている。

さらに2025年半ばまでにウクライナ戦争の停戦協定が締結され、アメリカ政府がNATOから撤退するプロセスが始まると想定している。「ウクライナ戦争後、ロシアは2027年にはNATO同盟国、特にバルト諸国に重大な軍事的挑戦をもたらす立場を確立する可能性がある」とも指摘している。

ウクライナ戦争によってロシアの陸軍は消耗したが、空軍と海軍はほとんど無傷で残っている。NATOが撤退した米軍の穴を埋めるには1兆ドルの資金が必要と試算している。

欧州で高まる“ロシア脅威論”

『AP通信』は「NATO高官はロシアの脅威に対抗するためには空軍力とミサイル防衛能力を400%増やす必要があると語っている。

さらにモスクワは5年以内に欧州を攻撃する準備ができるだろうと警告している」と伝えている。ルッテNATO事務総長も「ロシアは弾薬生産でNATOをはるかに上回っており、同盟国は(軍需生産で)“量子的”な飛躍を遂げなければならない」と語ったことを紹介している(2025年6月10日、「NATO chief calls for ‘quantum leap’ in defense and says Russia could attack in 5 years」)。

この発言はNATO加盟国に軍事費をGDPの5%にまで増やすというトランプ大統領の要求を受け入れさせる狙いがあったと思われるが、NATOがロシアの軍事的脅威に神経質になっていることは間違いない。

『Reuters』は、ドイツの『Der Spiegel』誌が入手した機密文書に触れ、「機密文書によれば、クレムリンは10年後にNATOに対して大規模な攻撃を行うために必要な産業と指導部の構造を調整している」と指摘している(2025年6月20日、「German military deems Russia ’existential risk’ to nation and Europe, Spiegel reports」)。

『AP通信』も6月18日に「EU's top diplomat warns that Russia has a plan for long-term aggression against Europe」と題する記事で、EU外交政策最高責任者カヤ・カラス氏の言葉を紹介している。同氏は「ロシアは様々な妨害工作やサイバー攻撃によって、既にEUの直接的な脅威になっている。EU27カ国の合計軍事費を上回るロシアの巨額の軍事費は、プーチン大統領が将来、その軍事力を行使する計画を持っていることを示している。

これはEUに対する攻撃のための長期的な計画である。使用する気がなければ、これほどの軍事費を使う必要はない」と語り、ロシアの侵略的な行動として、領空侵犯、挑発的な軍事訓練、エネルギー・グリッド、パイプライン、海底ケーブルへの攻撃などを挙げている。

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