NATO首脳会談でわかった欧州が直面する現実(下)アメリカの引き留めには成功したものの軍事費増が経済を圧迫

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こうしたロシアの軍事的な脅威の高まりの中で、トランプ大統領はNATO加盟国にさらなる軍事費の引き上げを要求し、受け入れなければ、欧州から米軍を撤退させると圧力を掛けた。NATOにとって、アメリカを欧州に引き留め、欧州の安全保障にコミットさせるためには、その要求を飲むしかなかった。

もちろん、トランプ大統領の機嫌を損ねるわけにはいかない。カナダで6月8~9日に開催されたG7首脳会議においてトランプ大統領は初日に参加しただけで帰国してしまった。NATOはそうした事態を何としても避けたかった。報道からはNATOがトランプ大統領を特別扱いしたことがわかる。

会議前に軍事費増で合意し、ご機嫌取り

『The Guardian』は6月25日に「なぜNATOは重要な会議でトランプのために赤いじゅうたんを敷いたのか」と題する記事を掲載している。「赤いじゅうたん」は極めて重要な人物を特別待遇で迎えるために使われる比喩的な言葉である。

イスラエル・イラン戦争を休戦に導き、自らを「平和の救世主」と称するトランプ大統領を異例の敬意を持って出迎えたのである。同記事は、アメリカのマシュー・ウィテカーNATO大使が「NATOの歴史で最も重要な意味を持つ瞬間である」と語ったと伝えている。トランプ大統領は王のように振る舞い、NATOの首脳は従者のごとく従った。

『Reuters』も6月26日に「NATOのトランプ氏へのお世辞は時間稼ぎにはなったが、難しい問題には向き合わなかった」と題する記事を配信している。「NATOはトランプ氏を喜ばせ、同盟を維持するために、称賛を惜しみなく送り、『王室のような待遇』を演出し、彼のスローガンまで真似するなど、あらゆる手段を尽くした」と指摘している。

また、NATOの決議は全会一致が原則なので、ハーグでのNATO首脳会議が始まる前からNATO事務局は加盟国に対して軍事費のGDP比5%目標を認めるように積極的に根回しを行った。ロシアから遠く、財政に余裕がないスペインが反対したため、同国のみ目標を2.1%とし、ほかの加盟国は目標を5%とする合意が会議開催前になされた。

そこまで配慮して出されたのが6月25日の「ハーグ宣言」だ。内容は以下の5項目である。

①NATOはワシントン条約の第5条の集団的自衛権に対するコミットメントを再確認する。NATOは同盟を護持し、自由と民主主義を保護するための決意と団結は不動である。
②加盟国は重大な安全保障の脅威と課題、特にロシアによる安全保障とテロリズムの持続的、長期的な脅威に直面しており、2035年までにGDPの5%をコア防衛(core defense)支出と防衛・安全保障関支出に回し、条約の第3条(締約国は継続的かつ効果的な自助努力と相互援助を通じて、個別的および集団的に武力攻撃に抵抗する能力を維持・強化する)に従って集団的義務を果たす。
③5%の防衛支出は2つの重要なカテゴリーで構成される。2035年までにGDPの中核的軍事費に3.5%を割り当てる。重要な防衛インフラストラクチャを保護し、ネットワークを守り、防衛産業基盤を強化するために最大でGDPの1.5%を支出する。この計画に基づく支出は2029年に再検討される。加盟国は、ウクライナの安全保障は欧州の安全保障でもあり、ウクライナへの継続的な支援を行うことを再確認した。ウクライナの安全はNATOの安全に貢献している。
④加盟国の防衛産業の協力を迅速に拡大する。加盟国間の防衛貿易障壁を排除し、防衛産業協力を促進する。
⑤2026年の首脳会議はトルコで開催される。
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