NATO首脳会談でわかった欧州が直面する現実(上)NATO離れ進むアメリカ、軍事費を増やし欧州自身がロシアから身を守ることを要求

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オランダ・ハーグで開かれたNATO首脳会議、集団安全保障を“人質”に取ったトランプ大統領の独擅場だった(写真: Simon Wohlfahrt/Bloomberg)

2025年6月24日から25日の2日間、オランダのハーグで開かれたNATO(北大西洋条約機構)の首脳会議は、今後のトランプ政権とNATOの関係を占う重要な会議だった。

NATOに対して大幅な軍事費の増加を求めるトランプ大統領は、軍事費増に応じない国は「ロシアの好きなようにさせる」とまで発言し、アメリカの“NATO離れ”が現実の問題となっていた。他方、NATOもトランプ大統領の強硬な要求に直面し、アメリカに対する信頼感を失いつつあった。それぞれがどう対応するのか注目されていた。

終わってみれば、会議前にルビオ国務長官が「今回はトランプ・サミット」と言っていたように、トランプ大統領の存在感が際立った。NATOは抵抗らしい抵抗をすることなく、軍事費増の要求を飲んだ。

だからといって、アメリカが欧州の安全保障にどこまで軍事的にコミットするのかは依然として不明だ。トランプ大統領の最大の支持層であるMAGAは、アメリカの海外での軍事的な関与に慎重である。NATO首脳会議から見えてきた欧州の安全保障をめぐる現実を分析する。

NATOの東欧への拡大でロシアに危機感

第2次世界大戦後、ソビエト連邦は東欧を支配下に置き、共産主義を世界に“輸出”していた。地続きの西欧と反共国家アメリカにとってソ連は共通の敵だった。

1949年、ソ連を封じ込めるために作られたのがNATOで、最大の特徴は第5条に規定された「NATO加盟国の1カ国への攻撃はNATO全体への攻撃であり、NATO全体として反撃する」という集団安全保障条項だ。集団安全保障により、東西両陣営の直接的な交戦は抑制された。

ソ連の崩壊でNATOと旧ソ連を引き継ぐロシアとの関係が変わった。1999年にチェコ、ハンガリー、ポーランドが、2004年にバルト3国、ブルガリア、ルーマニアなど7カ国がNATOに加盟した。NATOが東欧へ拡大したのは、多くの東欧諸国がロシアの脅威に対する安全保障をNATOに求めたからだ。

同時に東欧諸国にとってNATOやEUへの加盟は、市場経済、西欧的民主主義を受け入れることを意味した。だが、ロシアにとってNATOの東欧拡大は安全保障上の脅威と映った。

2008年にロシアとジョージアの間で起きた軍事衝突の背景にはジョージアのNATO加盟問題があった。この紛争がロシアの対NATO政策の転機となり、2014年のクリミア半島併合、2022年のウクライナ侵攻へと繋がっていく。

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