NATO首脳会談でわかった欧州が直面する現実(上)NATO離れ進むアメリカ、軍事費を増やし欧州自身がロシアから身を守ることを要求

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では、こうした基本方針の下、トランプ大統領はアメリカとNATOの関係をどうしたいのか。SNSなどでの断片的な発言からは、その全貌は見えない。2025年2月12日にヘグセス国防長官が「ウクライナ防衛連絡グループ(Ukraine Defense Contact Group)」の会合で行った演説が最も端的にトランプ政権のNATO政策を示しているのでこれを見てみよう。

ヘグセス長官は「2014年以前のウクライナの国境を回復するというのは非現実的な目標である」と語っている。すなわち2014年にロシアが併合したクリミア半島と2022年の侵攻でロシアが占領したウクライナ東部の州を取り戻すのは無理ということだ。極めてロシア寄りの発言である。

「ウクライナのNATO加盟は現実的ではない」と続ける。これもプーチン大統領の主張を受け入れたものである。さらに「ウクライナへの軍の派遣はNATOの使命とは無関係である。

第5条によってウクライナへの派兵が実施されるべきではない。米軍がウクライナへ派兵されることはない」と、ウクライナへの直接的な軍事関与の可能性を全面的に否定している。フランスやイギリスなどが自国の軍隊をウクライナへ派兵すると示唆しているのとは対照的である。

アメリカはインド太平洋の安全保障を優先

ヘグセス長官は、欧州が直面する脅威に対して、「もっと防衛費を増やすことによってのみ対応できる」「GDPの2%では不十分であり、トランプ大統領は5%に増やすことを求めている。私もこれに賛成である」と、さらなる軍事費の増額を要求している。

また「アメリカは国内で深刻な脅威に直面している。私たちは、まず自分の国の国境の安全を守ることに注力しなければならない」と言っている。欧州の安全保障に関わる余裕はないということだ。

さらに、アメリカの安全保障にとっては欧州よりもインド太平洋の方が重要であるという見解を示す。「アメリカはアメリカ本土とインド太平洋での中核的な利益を脅かす意図と能力を持った共産主義国家中国との競争に直面している。アメリカは太平洋で中国との戦争を抑止する政策を優先している。そのために資源が希少であると認識し、抑止が失敗しないように(軍事的)資源を配置する。アメリカは中国の脅威への対応を優先するために、欧州と太平洋での私たちの比較優位を最大にするための(アメリカとNATOの)分業を確立する」と語っている。

アメリカはインド太平洋での安全保障を、欧州は欧州での安全保障をそれぞれ担う、要は分業をしようというわけだ。

そして「欧州はウクライナへの差し迫った安全保障上のニーズだけでなく、欧州の長期的な防衛と抑止の目標を堅持することを求める」「アメリカへの依存を促進するような不均衡な関係には、これ以上、耐えられない。私たちの関係は、欧州に自らの安全保障に責任を持たせることを優先するものでなければならない」と、欧州に対する軍事的コミットメントを低下させると語っている。

まとめると、アメリカはインド太平洋の安全保障問題に集中する、欧州の安全保障からは手を引くので、軍事費を大幅に増やして対応しろということだ。

こうした状況を背景に開催されたのが6月24~25日のNATO首脳会議だった。結果からは欧州の加盟国が軍事費増で合意し、アメリカの考えを受け入れたように見える。しかし、合意の実現には財政拡大という茨の道が待ち受けている。

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒業。東京銀行(現三菱UFJ銀行)、東洋経済新報社、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。知米派ジャーナリストとして活躍。

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