NATO首脳会談でわかった欧州が直面する現実(上)NATO離れ進むアメリカ、軍事費を増やし欧州自身がロシアから身を守ることを要求
アメリカにも大きな変化があった。21世紀に入ると、中国の台頭、リーマンショックなどにより「アメリカ一強の時代」は終わり、衰退が始まった。他方、クリミア半島併合などロシアと中国は露骨な領土的野望を抱き、世界の政治的、軍事的な秩序の変更を求めている。
そんな時代の変化を背景に第1次トランプ政権が発足した。冷戦時代との違いは、自ら権威主義国家を目指すトランプ大統領が同類であるプーチンのロシアに共感的であることだ。今やアメリカとNATOには、“共通の敵”は存在しない。
NATOも軍事費の増額に応じてきた。オバマ政権時の2014年9月、ウェールズでのNATO首脳会議でGDP比2%とすることに合意、2024年の時点で、欧州の加盟国だけでGDPに対する軍事費は2.02%になっている(アメリカを含めると2.71%)。
主要国ではドイツが2.21%、フランスが2.06%になっている(アメリカは3.38%)。最も高い比率はポーランドの4.12%で、これはロシアの飛び地であるカリーニングラードとロシアの同盟国であるベラルーシと国境を接しているからだ。エストニアの3.43%がこれに次ぐ。最も低い比率はスペインの1.28%で、2%未満が8カ国ある(スウェーデン国際平和研究所)。しかし、トランプ大統領は2%では満足できない。
不満がぶちまけられたのは2017年に開催されたNATO首脳会議。トランプ大統領は「集団安全保障条項」に対するコミットメントを拒否した。NATOの中核的な領域である。トランプ大統領は、NATOを“戦略的パートナー”ではなく、“安全保障でただ乗り(free ride)をしている相手”と見ていた。
記念写真セッションが始まった時、トランプ大統領はNATOが軍事費を増額しなければ欧州から撤退すると主張し、緊急会議を開くことを要求したが、首脳会議はそのまま終わった。
米国保守派の国際政治観「国際組織など無意味」
アメリカには建国以来、孤立主義の伝統がある。トランプ大統領を支えるアメリカの保守派は、国際政治はジャングルのような無法地帯であり、国際組織や条約、集団安全保障は意味がなく、最終的に「平和は力によって達成される(peace through strength)」と主張している。実際、トランプ外交は「力こそ正義だ」という考え方に基づいている。
イランの核施設攻撃の作戦名「Operation Midnight Hammer(真夜中の鉄槌作戦)」にその片鱗がうかがえる。「Hammer」という言葉には「懲罰」という意味合いが込められている。トランプ大統領は、「核施設への爆撃がイランに休戦を決意させた」と、「力による外交の成功」を誇示している。「話し合いが駄目なら武力を行使することも辞さない」というのが、トランプ政権の方針である。
また、トランプ大統領と保守派は、集団安全保障はアメリカに一方的な財政的負担を強いるものだとも考えている。国益に直接関係ない問題から距離を置く傾向は、第2次トランプ政権でさらに強まっている。安全保障問題に限らない。新興国の人道支援、経済開発、民主化支援を担ってきたUSAID(合衆国国際開発庁)の予算の大幅縮小と人員削減を実施し、実質的な解体を進めている。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら