
「日本では人権を考慮されずに決められた政策は多い。だからこそ、声を上げることで政策や制度などを変えていく余地は大きい」
そう話すのは、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の日本代表を務めている土井香苗氏だ。今春、母校・東京大学の入学式で祝辞を述べた土井氏は、人権問題を「本業」にした経緯を新入生に語りかけた。
中学時代に読んだ犬養道子『人間の大地』をきっかけに難民問題に関心を抱き、大学3年生のとき、NGOピースボートを通じて独立直後のアフリカの小国・エリトリアに渡った。現地で法律作りのボランティアに1年間携わった経験などが、人生の大きな転機となった。
東京事務所の立ち上げに松本大氏も協力
卒業後、弁護士として活動しながら国際人権問題への取り組みに軸足を移した土井氏は、2009年にHRW東京事務所の立ち上げに至る。資金集めでは毎年4000万円が必要とされたが、 大学時代の友人を通じて会った、マネックスグループ会長(当時社長)の松本大氏らの多大な協力を得たという。

HRWは1978年に設立され、ニューヨークに本部を置く世界最大級の国際人権NGOだ。1997年には対人地雷禁止条約の成立に貢献し、他団体と共にノーベル平和賞を受賞した。
HRWの活動は、大きく3段階に分かれる。まずは、被害者や専門家への聞き取りなどから人権侵害の実態について調査する。その調査内容や政策提言を報告書にまとめ、メディアなどを通じて発信。さらに、政治家や官僚に対して法律や制度の改善を働きかける。
世界規模の人権問題から、各国の制度や慣習に深く根差した課題まで、幅広く手がける。
例えば、日本では親元で暮らせない子どもたちの多くが、養子縁組や里親などではなく、児童養護施設や乳児院などの施設で養育されている。この問題について、HRWは全国200人以上に聞き取り調査を実施し、改革を求める報告書を発行した。
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