NATO首脳会談でわかった欧州が直面する現実(下)アメリカの引き留めには成功したものの軍事費増が経済を圧迫
会議の最大の焦点は、アメリカがワシントン条約第5条「集団的自衛権」を順守するかどうかであった。トランプ大統領は、集団的自衛権の解釈を見直すと示唆し、NATOに軍事費をGDPの5%まで引き上げるよう圧力をかけた。
前述のように首脳会議が始まる前に軍事費増加が合意されたことで、第5条問題は一応、解決した。会議前にトランプ大統領はルッテNATO事務局長と記者会見に臨み、「軍事費増加はすべての人にとって偉大な勝利だ」と語っている。さらにトランプ大統領は第5条に対するコミットメントに関する記者の質問に対し、「We are with them all the way(私たちは常に彼らと一緒だ)」と答えている。
トランプ大統領は、2025年初めの時点で欧州に駐留する米兵10万人の一部撤収を示唆していたが、その懸念は薄れた。当面、「アメリカ抜きのNATO」は消え、従来の同盟関係が継続されることとなった。
対話や信頼に基づく安全保障政策から軍事力強化へ
アメリカを欧州に繋ぎとめたNATOの次の問題は軍事費調達である。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の調査(2025年4月、「Trends in World Military Expenditure, 2024」)によれば、2024年のNATO全体の軍事費は1兆5060億ドルであった。アメリカの負担額は9970億ドル(全体の約66%)である。アメリカを除くNATOの負担額は5090億ドルとアメリカの半分程度しかない。
目標の2035年の軍事費の状況はどうなっているのか。SIPRI報告「NATO’s new spending target: challenges and risks associated with a political signal」(2025年6月27日)は、5%目標を政治・軍事的な側面と、財政的な側面から分析している。
同報告は、軍事費増での合意は「ロシアの脅威に対するNATOの抑止力としての決意と団結、共通のコミットメントを示す政治的な声明であった」と、その意味を説明している。さらに「NATOが軍縮のような外交的なメカニズムよりも抑止力、強さ、軍事的な準備を優先していることを示した」と指摘している。
これは1990年「欧州通常戦力(CFE)条約」で示された武器制御、透明性、信頼構築メカニズムに基づいて構築された安全保障のビジョンからの離脱を意味している。つまり、NATOは対話や信頼による安全保障メカニズムの路線から、軍事力強化路線へ舵を切ったのである。
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