イーロン・マスクの130日(上)強引なやり方で政権内で孤立、最後はトランプにはしごを外される

2025年5月31日、イーロン・マスク氏は特別政府職員としての130日間の契約が満了し、トランプ政権から去った。その2日前にマスク氏は『X』に「特別政府職員としての私の任期が終了するにあたり、むだな支出を削減する機会を与えてくださったトランプ大統領に感謝したいと思います。政府効率化省(Department of Government Efficiency: DOGE)の使命はますます強化され、政府全体に広まり、当たり前の習慣として根付くでしょう」と書いている。だが、その退任は祝福されたものではなく、退任直後から、同志と呼ばれるほど親密だったトランプ大統領とマスク氏の関係は、お互いを非難し合う泥沼の対立関係へと変わった。
始まりは“蜜月”だった。アメリカでは閣僚であっても簡単に大統領に会うことはできない。大統領執務室のあるウエスト・ウィングにオフィスを構えるのは副大統領、主席補佐官、安全保障担当補佐官、顧問弁護士など側近中の側近だ。その2階にオフィスを与えられたということだけでもマスク氏の政権内でのポジションがわかる。大統領の絶大な信頼を背景にマスク氏は新設された政府効率化省の責任者として大胆な公務員削減をはじめとする歳出圧縮を行う権限が与えられた。
しかし、その実績は大山鳴動して鼠一匹の感がある。マスク氏の政府での130日間は人騒がせな茶番だったのか、それともアメリカの政府のあり方が変わる端緒になるのか。また、トランプ大統領との確執は、今後のアメリカ政治にどのような影響を与えるのだろうか。以下で「マスクの130日」を検証する。
民主党支持から急に心変わり
マスク氏は過去にはクリントン大統領やオバマ大統領、ヒラリー・クリントン大統領候補、バイデン大統領を支持してきた。だが、2024年の大統領選挙では共和党支持に回り、7月には正式にトランプ支持を表明している。「共和党は実力主義と個人の自由を支持している」というのがその理由だ。
政治団体「America PAC」を設立し、トランプ候補などへ総額で2億9150万ドル(1ドル=145円換算で約423億円)の政治献金を行っている。大統領選挙の結果を左右する激戦州では、トランプ支持者の動員促進などに巨額の資金を使い、さらに自らが所有する『X』を通じて有権者にトランプ支援のさまざまなメッセージを送った。選挙運動中もトランプ候補の遊説に同行し、並んで演台に立つなど、その肩入れぶりは際立っていた。マスク氏の応援がなければ、おそらくトランプ勝利はなかっただろう。
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