ウクライナ支援はアジアに悪影響をおよぼすのか 「欧州重視」対「インド太平洋重視」の誤った前提

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ウクライナ支援をしすぎだという議論と、NATO加盟国防衛のためのコミットメントをしすぎだという議論はまったく別物だ。

前者の議論はアメリカ国内でよく聞かれるが、後者の議論はほとんど聞かれない。しかし、アメリカによるコミットメントの地域バランスを欧州偏重だと批判し、変えたいのだとすれば、ウクライナ支援のみを削ったところで効果は限定的である。NATOへのコミットメントのレベルを再考する必要が生じる。

しかしそれができない、ないし、する意思がないのだとすれば、ウクライナ支援はスケープゴートにされているということになるだろう。

ピュー・リサーチ・センターによる2023年6月の調査では、ウクライナへの支援が過大だと考えるアメリカ人は28%にのぼる。これは2022年3月時点の7%と比較すれば大きな上昇だといえる。

民主党支持者の間では14%であるのに対して、共和党支持者の間では44%であり、党派間の相違も顕著である。そのため、2024年のアメリカ大統領選挙の行方が懸念されるのである。政治において世論のパーセプションの問題は重要である。

アメリカによるウクライナ支援規模の実像

アメリカのウクライナに対する支援額は他国を大きく引き離す首位であり、軍事支援のみで、2022年2月から2023年6月までの合計は約466億ドル(約6兆5000億円)になる。これはたしかに巨大な金額だ。

しかし、アメリカの2023会計年度の国防予算は8167億ドルであり、ウクライナへの軍事支援額はその5.7%に過ぎない。また、2001年以降の20年間でアメリカは、国防総省予算のみで2兆ドル以上をイラクとアフガニスタンでの作戦に費やしており、年平均にすれば1000億ドル以上になる。ウクライナ支援はその半分以下である。

アメリカはオバマ政権下の2012年に、2つの大規模紛争に同時に備えることを断念したが、イラクやアフガニスタンへの関与よりも予算規模で小さく、しかもアメリカ軍を直接関与させないウクライナ支援によって、中国への対処が本当に困難になるのであれば、それはウクライナ支援を縮小すればすむというレベルの問題ではない。

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