そのうえでなお、ロシアによるウクライナ侵攻への対処にあたり、ウクライナへの武器供与を含めて、欧州諸国がより大きな役割を果たすべきだとの議論は完全にそのとおりである。この点に関するアメリカの不満は当然であろう。
しかし問われるべきはその先の政策論である。たとえばウクライナ支援とロシアへの対処は欧州の責任であるとして、アメリカが関与の度合いを引き下げるとする。その結果、欧州のみでは十分な対処ができずにロシアの影響力が増大し、欧州の国際関係が不安定化すれば、アメリカもその影響を受けることが不可避になる。
「欧州のことは欧州で」や「中国に集中すべき」という議論に欠けているのはこの視点である。それゆえに、そうした主張に基づく政策の大転換は起こりにくいのである。
今日のウクライナは明日の東アジア
バイデン政権の政策に批判的な共和党のなかには、ウクライナへの武器供与を強化することで戦争を早く終結に導くべきとの声も根強い。そもそも共和党は伝統的には反中よりも反露である。そして、いずれにしても悪影響から逃れられないのであれば、その前に関与しておくほうがコストを抑えられる。それが、第2次世界大戦以降のアメリカが学んだ教訓であった。
さらに、欧州とインド太平洋の間の安全保障上のリンクが深まるなかで、これらを2つの別個の戦域として捉えるのではなく、1つの戦域として捉える必要も生じている。これが、欧州とインド太平洋の安全保障は不可分であるとの認識につながる。
欧州で法の支配やルールに基づく国際秩序どころか、国家主権や領土の一体性が踏みにじられる状況が続いても、インド太平洋地域はその悪影響から逃れられると考えるべきではない。
岸田文雄首相が繰り返し述べるように、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」のである。同時に、日本にとってこの不可分性の認識は、米欧諸国に対する中国を中心とするインド太平洋の安全保障問題への関心と関与の呼びかけという側面を有する。
このようにみてくると、欧州かインド太平洋か、あるいはロシアか中国かという問題は、単純なトレードオフで論じられるものではないことが明らかだろう。多面的な現実を踏まえたうえで、現実的な政策論を展開していくことが求められる。
(鶴岡路人/慶應義塾大学総合政策学部准教授)
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