【連載第3回:ウクライナ反転攻勢の行方】
ロシアによるウクライナ侵略は、開始から1年半を迎えようとしているが、現時点で停戦して和平交渉に入る意志は、ウクライナとロシアの双方に存在していないのが現実である。
仮にロシア軍がウクライナ国内に残る状況で停戦交渉を行えば、ロシア軍が態勢を整えて再侵攻を準備する恐れもある。このため、一人でも多くのロシア兵を国境外まで押し出した状況でなければ、停戦交渉は意味を持たないというのが、ウクライナ側の支配的な認識となっている。
一方のロシア側は、2022年10月に東部・南部4州とクリミアがロシアに「併合」されたという「領土上の新たな現実」をウクライナが認めることが、ロシアがウクライナとの交渉に応じる大前提であるという立場を崩していない。これらの地域の放棄を前提とした交渉をウクライナが受け入れる誘因は極めて小さい。
「平和の公式」とはなにか
ゼレンスキー大統領は昨年11月15日、20カ国・地域(G20)首脳会議の際、同国にとっての戦争終結・平和の保証のための10条件「平和の公式(ピース・フォーミュラ)」を公表している(表参照)。ウクライナが現在全力を挙げているのが、この「平和の公式」を世界各国に説明し、支持を取り付ける外交活動である。
「平和の公式」(2022年11月15日)
1 放射能・核の安全
2 食糧安全保障
3 エネルギー安全保障
4 すべての被拘束者と追放された人々の解放
5 国連憲章の履行とウクライナの領土一体性と世界の秩序の回復
6 ロシア軍の撤退と戦闘の停止
7 正義の回復
8 環境破壊行為(エコサイド)対策
9 エスカレーションの防止
10 戦争終結の確認
この「平和の公式」を、ウクライナがロシアに対して非妥協的に掲げる「『勝利』の条件」と解釈して警戒的に捉える向きもあるが、ウクライナはむしろこれを、ロシアの再侵攻の恐れのない安定的な平和を維持するための「最低限の条件」と位置づけていることに留意する必要がある。
またゼレンスキー大統領をはじめとしたウクライナ政府関係者は、この「平和の公式」への賛同を呼びかける際、各国がこれに「参加するよう招待する」という表現を用いることが多い。これによって各国が、10項目中の任意の分野で「平和の公式」の実現に手を貸してくれるよう依頼するという含意を持たせている。
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