ウクライナが求める「平和の公式」という停戦条件 開戦から1年半、和平交渉のために必要なこと

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「平和の公式」に掲げられた10項目はいずれも、ロシアによる侵略によってウクライナがこれまでに被った被害や、今後直面しうる脅威に基づいている。

たとえば第1項目の「放射能・核の安全」は、侵略開始後間もない2022年3月にロシアによって占拠され、この侵略を通じて幾度となく攻撃や事故の恐れが指摘されてきたザポリージャ原発を念頭に置いている。第2項目の「食糧安全保障」は、ロシアによる黒海封鎖によってウクライナ産の穀物の輸出が困難となった経験に基づく。

第8項目の「環境破壊行為(エコサイド)対策」は、ロシア占領下にあるヘルソン州のカホウカ・ダムがロシアによる攻撃対象となる恐れがあったことを背景に盛り込まれている。同ダムが今年6月に決壊し、周辺地域に甚大な被害が及んだことは記憶に新しい。

ウクライナがこの「平和の公式」で最も重視し、諸外国に対して理解を求めているのが、第6項目にある「ロシア軍の撤退」である。すでに述べたように、ロシア軍がウクライナ国内に残っている状態では、終戦はおろか停戦交渉にすら応じられないというのがウクライナの立場である。

最重要条件は「ロシア軍の撤退」

しかし、同項目をめぐっては、現時点で少なくとも2つの不確定要素が存在する。

第1に「ロシア軍の撤退」という状況が実現するためには、ウクライナが戦場で相当の成功を収める必要がある。現在進行中の反転攻勢においてウクライナ軍の苦戦が報じられる中、この条件の達成は極めてハードルが高いと言わざるを得ない。

第2に「ロシア軍の撤退」が2022年2月24日の侵略開始時のラインまでの撤退を指すのか、それとも1991年の独立達成時のラインの達成を意味するのかも、現時点では不明確である。なにをもって「撤退」とするのかは、現実的には今後の領土奪還状況に大きく左右されざるを得ない。

第5項目にある「ウクライナの領土一体性」も、同様の問題をはらんでいる。たしかに現段階では、ウクライナも、またウクライナの重要な支援国であるG7およびEU諸国も、1991年の独立時の領土を取り戻すことが「ウクライナの領土一体性」を回復することとみなしている。

しかし、仮にクリミアおよびドネツク・ルハンシク両人民共和国の完全奪還の実現をもって「領土一体性の回復」とするのであれば、その実現可能性のハードルは極めて高くなる。「ロシア軍の撤退」や「ウクライナの領土一体性」の具体的な到達点については、ウクライナ当局者の発言にもズレが見られる。

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