とはいえ全般的には、「平和の公式」周知のための外交において、ウクライナは苦戦を強いられている。今年に入り、ウクライナとロシアの和平を訴えるさまざまな諸国が「提案」を行っているが、そもそもウクライナは他国からの新たな提案を求めているのではなく、「平和の公式」を議論の出発点とすることを求めている。
しかし、中国による「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」文書(通称「12項目文書」)(2月)、インドネシアのプラボウォ国防大臣がシンガポールで開催された安全保障会議「シャングリラ対話」における演説で語った和平案(6月)、そしてアフリカ政府代表団がロシアとウクライナに提示した10項目提案(同)のいずれも、「平和の公式」を踏まえていない。さらに、ウクライナが最重要視する「ロシア軍の撤退」を提案に含めた国はなかった。
ウクライナ側はこれら諸国からの提案に「ロシア軍の撤退」が含まれていないことに対して、遺憾の念を示してきた。しかし、中国やアフリカ諸国が「ロシア軍の撤退」を提案に盛り込む動きも、ロシアに対して軍の撤退を強く呼びかける動きも見られない。
中国にもアフリカにも和平仲介の強い意志はない
そもそも中国にしろ、アフリカ諸国にしろ、現時点で両者の仲介を行うための強い意志を持っているわけではなく、上記の諸提案も各国の戦争に対する立場を示したものに過ぎない。このためこれらの国々からすれば、ロシアが受け入れそうにない提案を行うことに積極的な意味を見いだせないのが正直なところであろう。
ロシアに比較的近いとされるこれらの国々が、ロシアに対して軍の撤退を強く要求しない以上、ウクライナとしてはこれら諸国に和平仲介を真剣に託せる状況にはない。反転攻勢と同様、「平和の公式」をめぐるウクライナ外交も苦しい闘いが続く可能性は否定できない。
(東野篤子/筑波大学人文社会ビジネス科学学術院・国際公共政策専攻 教授)
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