
ウクライナ情勢は2025年5月半ば、プーチン政権とゼレンスキー政権との直接交渉が始まる一方で、ウクライナによるロシア空軍基地への初の大規模なドローン攻撃などを受け、混沌としてきた。
今回、ウクライナ駐在日本大使として3年間、侵攻を目の当たりにしてきた松田邦紀氏をインタビューし、停戦・和平実現に向けた課題や見通しについて見解を伺った。
ゼレンスキー大統領が助言を仰いだ大使
その前に松田氏が最近出版した『ウクライナ戦争と外交』(時事通信社)の主な内容を紹介したい。松田氏は、各国駐在大使の中でも米英両国大使と並んでゼレンスキー政権の外交方針に大きな影響力を与えた実力派の大使だった。
ウクライナがつねに助言を仰いだ存在だった。その意味でこの本は単なる大使回想録ではない。国際的にも貴重な歴史的事実がちりばめられている第一級の証言だ。主な内容は以下の通りだ。
まず侵攻が始まった2022年2月末の前に、ロシア軍の態勢を把握していたゼレンスキー政権が国民の動揺を回避するためか、侵攻の可能性が高いことを伏せていたことが明らかにされた。侵攻当日にゼレンスキー氏が急遽設置し議長となった、最高決定機関スタフカ(最高司令部)の陣容、機能について記されている。
スタフカについて、これほど詳しく記述できるのは日本では松田氏だけだろう。ウクライナ侵攻に関する今後の研究にとっても一助となるだろう。
またロシア軍との火力の差を埋めるため、ゼレンスキー政権が進めたドローン開発の経緯が詳しく紹介されている。国家主導のロシアとは異なる、民間主導の独自のドローン開発が、戦争におけるドローン時代の到来を告げた今回のドローン攻撃の背景にあることがわかる。
一方で、ウクライナが最大の軍事的支えとして期待を寄せたアメリカのバイデン政権が武器供与に制限を加えたことへの批判と、遅延なく供与されていたら、すでにウクライナが戦争に勝っていたとの見解を表明している。次ページからは、松田前大使とのインタビューだ。
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