それでも、分野によっては欧州かインド太平洋かという単純なトレードオフが存在する。欧州が主として陸のドメインであるものの、F-35などの最新鋭戦闘機や無人偵察機に加え、空母や潜水艦なども地中海を含む欧州方面に展開している。
これらは、ウクライナ支援というよりは、NATO加盟国の防衛強化のためだが、アメリカ本土から展開している空軍・海軍のアセットは欧州とインド太平洋でいわば「取り合い」の構図にある。
さらに深刻なのは、武器・弾薬の供給問題である。ウクライナでの効果が実証されたHIMARS(高機動ロケット砲システム)はインド太平洋においても需要が高いし、パトリオットをはじめとする各種の防空システムについても、アメリカ軍における在庫水準の低下には警戒せざるをえない。
ただし、これについても別の側面をあわせて考える必要がある。
インド太平洋へのプラス効果も
第1に、1年あまりのウクライナ支援によって武器弾薬の在庫水準が危機的になり、補充が困難になるとすれば、それ自体が重大な問題である。
この問題が可視化されたために、米欧は武器弾薬の製造能力拡大に本腰を入れることになった。これはインド太平洋の同盟国にとってもプラスだといえる。中国の関わる有事が発生した際に、それが短期間で終わることに賭けるわけにはいかない。この点では日本の役割も問われることになる。
第2に、ウクライナの前線で各種の武器弾薬が前例のない規模と速度で使用されたり、NATO加盟国防衛のための部隊展開の結果として、貴重な情報と経験が蓄積されている点も無視できない。
たとえば、ロシアによる電子戦への対応によって、HIMARSなどのソフトが更新されているといった事例も報じられている。また、NATO加盟国の防衛支援で展開したF-35の部隊も、初めての長期にわたる遠距離展開によって新たな知見を得たといわれている。
これらはインド太平洋での対処能力強化につながる。装備面のトレードオフも、固定的なものとして捉えてはならない。
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