「日本の銭湯」世界遺産並みの価値が認められた訳 「テルマエ・ロマエ」に登場した銭湯には助成金

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「週末、お父さんに連れられた子どもたちが来るようになりました。家庭の小さな風呂で子どもと一緒に入るとどうしてもぬるくなってしまうという話を、最近、利用者の方から聞くことがありました。だから湯が冷めることのない銭湯がいいんだと」(栗生さん)

長屋の畳も人気で、湯上がり後の子どもたちはパジャマ姿でごろごろ、裸足で駆け回ったりしている。畳の気持ちよさは日本人のDNAに刷り込まれているのかもしれない。

長屋を利用してのイベントも地元の人たちからの提案などを受けて定期的に開催されるようになってきた。週末金曜日から日曜日の夕方に開かれており、入浴後にちょっと一杯も可能である。

稲荷湯
稲荷湯は脱衣所の格天井も見事。見上げてみて欲しい(撮影:尾形 文繁)

「レトロ」「風情」を超える銭湯の価値

一般社団法人せんとうとまちには全国の銭湯経営者、銭湯を残したい人たちからの相談も増えた。銭湯は家族経営が多く、他業種を経験することなく経営を継いだ人たちの世界は広くはない。特に一度廃業や休業後に再生を考える、業界団体との付き合いが少ない人たちは他の事例を参考にすることもできなかった。

そこに、多くの銭湯が悩む老朽化した建物を適切に調査し、運営のみならず改修についてもアドバイスできる相談先が出現したわけである。相談が集中するのは無理もない。

相談をうけた中には、4月中旬に再開した荒川区の帝国湯や、大阪市住之江区の寿楽温泉のように再生された例もある。もちろん、一方には相変わらず廃業する銭湯もあり、全体数が減少傾向にあることは変わってはいない。

稲荷湯
都内の銭湯の文化財登録は稲荷湯が二軒目。一軒目は台東区・御徒町の燕湯で、三軒目は杉並区の小杉湯である(撮影:尾形 文繁)

だが、銭湯の存在意義が「レトロ」「風情」といったふんわりとした言葉ではなく、地域の人間関係の中心にあり、身体だけでなく精神の健康にも寄与するものだとしたら、残し方も変わってくる。

前述の寿楽温泉は地元の病院が銭湯を再開させたのだが、医療や福祉との連携も考えられていくようになるかもしれない。住んでいる人の幸せに繋がる形で残る銭湯が増えてくればその地域の魅力も増すのではないかと思う。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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