「日本の銭湯」世界遺産並みの価値が認められた訳 「テルマエ・ロマエ」に登場した銭湯には助成金

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「数少ない立派な銭湯建築なので、文化財に登録しないですか?と言われました」と話すのは女将の土本公子さん。「それから何度も訪ねてこられ、文化財登録申請が進んで変な人ではないなと思い始めた頃にアメリカの財団の話が出ました。説明を聞いてもなんだかわからないし、まず、選ばれることはないだろうから好きにしてもらって大丈夫よと答えました」。

登録を持ちかけた栗生さん自身もたまたまWMFの日本窓口となっている人と知り合い、「何か登録すべきものがないか?」と問われて稲荷湯をあげたもので、それまで同財団についてはほとんど知識がなかった。

「要綱も当然ながらすべて英語でよくわからないものの、今後も保存、継承していくためにはお金が必要。現在、一般社団法人の理事の1人となったアメリカ出身のサム・ホールデンに翻訳をお願いして書類を作成、申請しました」(栗生さん)

稲荷湯
営業時間を待ちかねたように近所の人たちが集まる。稲荷湯に限らず、最近、風呂の掃除が大変という理由で銭湯を利用する高齢者が増えていると聞く(撮影:尾形 文繁)

危機的な文化遺産の25件に選ばれた

1965年に設立されたWMFは国などの枠を超えて歴史的建造物等の文化財を保護、保存することを目的として各国の政府や民間団体などと協力し、経済的、技術的支援活動や教育、啓発活動を行っており、支援活動範囲は120カ国を超す。

日本では広島県福山市の鞆の浦や京都の町家などに支援が行われており、2022年には金沢市事業である国の選定保存技術「縁付金箔製造」後継者育成プログラムへの支援が発表された。

同財団では2年に一度、危機的な文化遺産を選定するウォッチリストを発表しており、稲荷湯は世界中の250件以上の申請の中から2020年版『ワールド・モニュメント・ウォッチ』リストの25件に選ばれた。前述の通り、パリのノートルダム大聖堂、ペルーの空中都市・マチュピチュ周辺の景観などの世界遺産も一緒に選ばれた。

稲荷湯
脱衣所脇には小さな庭があり、自然の風が入ってくる(撮影:尾形 文繁)

ただ、リストに掲載されただけではお金は出ない。まずはリストを見てここを支援しようというスポンサー企業が現れてくれることが必要で、リストに載れば必ず支援が受けられるというものではない。また、支援が決まった場合には、受けた支援を形にできる受け皿となる団体、それにOKを出す所有者が揃わないと支援実施には至らない。

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