「日本の銭湯」世界遺産並みの価値が認められた訳 「テルマエ・ロマエ」に登場した銭湯には助成金

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そして、時代や社会の変化を考えるとこの役割は今後、東京ではより大きな意味を持つように思われる。最大の理由は、住んでいる人たちの孤立を防ぐという観点だ。

「東京では進学、就職で上京してきた人や外国人などが仕事、学校以外で人とつながる機会がありません。家族と暮らしていない高齢者もそうでしょう。そんな人たちにとって場を共にする、気配を感じる、その土地の素顔が見える銭湯は救われる場所。知り合いができないと悩んでいたギリシャ人留学生は銭湯で人とつながれた。銭湯にはヨーロッパでいうところの広場としての役割があると言っています」と栗生さん。

新潟で高校時代を過ごし、温泉を知っていたホールデンさんも学生時代に住んだ本郷のシェアハウス仲間と初めて訪れた銭湯に、温泉と違う魅力を感じたという。

「建物としては重厚な外観にキッチュなペンキ絵というギャップが面白く、温泉と違って街中にある点、怒られることも含めて会話がある点も特徴です。外から見るとすごく日本的だと思います」

稲荷湯
左からサム・ホールデンさん、栗生はるかさん、経営者の土本夫妻(撮影:尾形 文繁)

海外から見ると特異な日本らしい空間で、しかもそれがヨーロッパの広場のようにコミュニティ形成に寄与しているという点が残すべき価値と思われたのではなかろうか。  

銭湯は「公共的な場所」と認識された

また、稲荷湯の認定は稲荷湯単体に向けたものではない。WMFが認定を伝えに稲荷湯を訪問した際、取材陣が集まった。1人の新聞記者が「ほかの銭湯も認定するのか?」といった質問をしたと女将の土本さんは振り返る。答えは「個々にはしません」というものだったという。「『稲荷湯をシンボル、きっかけとして今回のような活動が広がっていくことを期待する』という意味だと思いました」と土本さん。

本来、WMFの認定は個人の資産に対しては行われない。だが、銭湯は公共的な場所と認識され、それが認定につながった。稲荷湯が世界で評価されることが日本の銭湯全体にプラスになることが期待されているのだ。

実際、影響は出始めている。稲荷湯でいえば大幅増とまでは言えないものの、テレビなどで紹介されたこと、長屋のような入りやすい場ができたことで確実に利用者は増えている。

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