かつて、感情は理性による論理的な思考を妨げるものであり、避けたり抑えたりすべきものとされていた。しかし、「感情神経科学」という注目を集める研究によって、感情や情動は人間の意思決定などに大きな役割を果たしていることが明らかになっている。感情や情動は直感的で正しい判断を下すために必要不可欠であり、それをコントロールすることは、社会的成功にとっても欠かせないものなのだ。今回、日本語版が6月に刊行されたレナード・ムロディナウ氏の著書『「感情」は最強の武器である』より、一部抜粋、編集の上、お届けする。
最悪なクライアントへの怒り
カレン・Sはハリウッドの中規模映画製作会社の最高業務執行責任者。過酷で競争の激しいビジネスだ。
カレンは仕事上、厄介な人を大勢相手にしなければならない。そして成功のためには、約束を破ったり不当な扱いをしてきたりしたクライアントとも良好な関係を維持しなければならない。ときには腹が立つもので、以前ならそれが仕事の妨げになっていた。
しかしある対処法を発見した。腹の立った相手に宛てたEメールに、自分の感じた不当な扱いを事細かく書き記し、それに対する自分の正直な感情をありのままに述べるのだ。
しかしそのEメールを送ることはしない。下書きボックスに保存して、数日後に再び見返そうと心に決めるが、実際には二度と開かない。
自分の感情を表現するという単純な行為だけで、問題が解決してしまうのだ。有害な怒りはすぐに消え、カレンは仕事に戻る。
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