情動について話したり書いたりすることでその情動を克服できるというのだろうか?
この方法を耳にしたことのある人は多いだろうが、実験心理学者の調査によると、ほとんどの人はうまくいかないと考えているという。逆に、話をするとかえって情動が強まってしまうと信じている。
赤ちゃんの頃は女の子よりも男の子のほうが社会性が高く、母親を見つめて怒りや喜びの表情を示すことが多いが、15歳から16歳になると多くの男子は性別の固定観念に屈して、自分の感情を声に出すのを避けるようになる。
人々の考えと違い、好ましくないネガティブな情動を表現することは、その情動を鎮めるのに役立つ。
臨床心理士によると、信頼の置ける友人や大切な人、とくに似たような問題を経験したことのある人に話をするのがもっとも効果的だという。
話すタイミングも重要だ。自分の感情をさらけ出すのは確かに重要だが、怖いことでもある。話し相手が上の空だったり、最後まで話に付き合う時間がなかったりすると、かえって逆効果になりかねない。
「感情ラベリング」のさまざまな効果
実験心理学者は臨床心理士と違って実際の診療の経験はないものの、数多くの研究を通じて、このように話をすることが有益かどうか、有益だとしたらなぜ有益なのかを探っている。
研究の世界では、自分の感情について話したり書いたりすることを「感情ラベリング」と呼ぶ。
近年の研究によって示されているとおり、感情ラベリングには幅広いさまざまな効果があり、たとえば心をかき乱すような写真や動画を観た後の悲しみが弱まったり、人前で話すと緊張する人の不安が鎮まったり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状が和らいだりする。
自分の感情について話をすると、前頭前皮質の活動が高まって扁桃核の活動が弱まり、再評価の制御法を用いたときと同様の効果がある。
またカレン・Sのように、心を乱す経験について書き記すだけでも、血圧が下がり、慢性痛が弱まり、免疫機能が高まることが示されている。
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