刷新進むエステー、創業者の娘が変えた空気の正体 10年前、社長になった鈴木貴子氏が覚えた違和感

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例えば、新しい事業である「クリアフォレスト」は、未来に向けた可能性を感じる領域ではあるものの、業績全体に貢献できるだけの数字を上げるにはいたっていない。「他事業のありようも見直し、無駄なところを削ってこちらに注力していこうと考えているのですが、まだできていないのがもどかしいところです」。

「クリアフォレスト」の成分を生かしたペットケア製品もスタート。抜群の消臭力があることから、ペット用のシステムトイレやトイレシートを開発した。これは大きな可能性を秘めている一方で、激烈な競争が繰り広げられている領域だ。

エステーの商品にSDGsの考えが盛り込まれていることや、天然の成分が使われているという独自性を今のところは訴求しきれていない。本質的な価値があるものを、どう世の中に伝えていくか、足元を固めながら、一歩一歩進めているところだという。

女性社長と強く意識することはほとんどない

明るく前向きな鈴木さんだが、女性社長として苦労することはないのだろうか。

「強く意識することが、実はほとんどないのです。確かに男性が圧倒的多数派で、そこに入れないと感じることもありますが、無理して入る必要もなければそれで不都合が何かあるわけでもないのです」(鈴木さん)

鈴木さんのソフトで芯を備えている人柄が、周囲の男性陣を巻き込んでいくのだろうと想像が及ぶ。最後に、女性の登用をどうとらえているかについて聞いてみた。

「時代の流れもあるのでしょうが、前向きな上昇志向を持っている女性が増えてきたと感じています。そういう意思を尊重することも大事だし、積極的に引き上げ、ある程度の塊みたいなものを作っていかなければとも考えています」(鈴木さん)

点や線ではなく、塊=群となっていくことが、今の日本の企業を取り巻く状況では第一ステップかもしれない。

この4月、社長が常務執行役の上月洋さんになると発表された。鈴木さんは6月から会長としての道を歩んでいくことになる。

鈴木さんの話には、未来に向けた明るい発想がちりばめられていたし、エステーが掲げる「空気をかえる」という“らしさ”には、これからの可能性を感じる。会長という大きな視座から、そのあたりをどう率いていくのか。白をトレードマークとしていた鈴木さんから、上月さんへの交代が、企業の“らしさ”にどんな色をつけていくのか、注目したいと思う。

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川島 蓉子 ジャーナリスト

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かわしま ようこ / Yoko Kawashima

1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了後、伊藤忠ファッションシステム入社。同社取締役、ifs未来研究所所長などを歴任し、2021年退社。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』『アパレルに未来はある』(日経BP社)、『未来のブランドのつくり方』(ポプラ社)など。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。

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