地元で家族経営の小売店に就職した。主な仕事は販売の店員で、給料は手取り15万円切る金額から変わらなかった。
「地元の風土が苦手でした。習慣だとか、田舎特有の人づきあいとか。近所の人が私のことをとにかく詮索してくる。誰々さんの娘はどこの高校に行ったとか。いまなんの仕事をしているとか。とにかく干渉されるのが嫌だった。新卒で入った最初の会社には9年いたけど、家族ぐるみの経営。田舎の人はやることがないから、みんな結婚が早い。いつまで経っても嫁がないって、散々言われたので、自分のことを知らない人しかいないところに行きたかった」
30代前半まで地元で働いた。
「結婚の話題が苦痛だった。未婚・未出産の高齢女性に対して変人扱いをし、品のない噂話が飛び交うような職場だった。田舎はそんなことを言いだす人がたくさんいる。田舎は二十歳そこそこで結婚するのは当たり前なので、そんなことを散々言われた。女性が結婚しないのは、人として欠陥があるという価値観でした。心からウンザリして、耐え難かった」
「田舎に帰らないで生きていけるだけで十分」
実家を出て上京したのは、自分が知らない人だけの場所に行きたい、と強く思ったのが理由だった。
2000年代前半は就職氷河期、非正規雇用の仕事が激増した時代である。雅美さんは東京で暮らしてから正規雇用をされたことがない。月の収入が手取りで20万円を超えることはほぼなかった。
「生活はギリギリで苦しいことしかないし、東京に友達は1人もいないけど、田舎に帰るよりはマシです。とにかく誰にも干渉されずに、自分で責任をとりたい。自分でできることは自分でやる。そういう意識があるので、誰かに頼ろうと思ったことはないです。人生の大逆転を妄想したことはあったけど、ずっと低空飛行。だいぶ前になにもかもを諦めたので、田舎に帰らないで生きていけるだけで十分です」
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