音大卒42歳女性が「手取り12万円」で苦しむワケ コンビニで働き、プロのオペラ歌手を目指した

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音大卒の江美子さんはなぜ貧困に苦しんでいるのか(編集部撮影)
この連載では、女性、とくに単身女性と母子家庭の貧困問題を考えるため、「総論」ではなく「個人の物語」に焦点を当てて紹介している。個々の生活をつぶさに見ることによって、真実がわかると考えているからだ。
今回紹介するのは、「音大を親の強い希望で卒業したが、超裕福な家庭の子どもでなければ学業の継続は困難だろう。私はいまだに、自分の人生を後悔し続けて生きている」とメールをくれた42歳の女性だ。

歌手になりたい夢を捨てきれない

幼い頃からの夢や恋愛は、成就しそうになかったら早々と諦めて方向転換したほうがいいこともある。20年間を費やして初恋を成就させた物語Netflixシリーズ『First Love 初恋』が話題だが、最終的に結ばれたからハッピーエンドだったものの、仮に叶わなかったならば、一人の女性に執着してすべてを捨てたパイロットの悲劇となってしまう。今日は幼い頃からの夢にしがみついて、貧困に転落し、いまだ抜けだせない42歳女性に会いに行くことになった。

「私は音楽大学出ってことをすごく後悔しています。こんなに貧しくなって、後悔しながらも音楽にしがみついて、まだ音楽を捨てきれないでボーカルとギターのレッスンを続けている。音楽にかかわらなければ、こんな貧しくて苦しい人生じゃなかったかも、普通に生きることができたかも、という後悔です」

神奈川県の新興住宅街、香月江美子さん(仮名、42歳)はギターケースを抱えて待ち合わせ場所にやってきた。実家暮らしで、障害者雇用で非正規会社員をしている。結婚経験はなく、衣食は両親頼み、いまも心の底では諦めながらも、歌手になりたい夢を捨てきれないで音楽を続けている。年収180万円、少ない給与のなかからボーカルとギターのレッスン代を支払っている。

音楽大学に進学して、プロのオペラ歌手を目指した。いまのところ、その夢は叶っていないし、叶いそうな断片も見えない。夢が叶うどころか、大きな夢を抱いたことで精神を壊し、自立ができない低賃金から抜けられず、結婚もできなかった。犠牲だらけで、なにも達成できなかった人生を後悔している――そういう話のようだ。カラオケボックスに入ると、江美子さんはギターを置いて語りだした。

「一つのことしかできない人間で、幼い頃からやってきた音楽だけが心の拠り所でした。でも、一歩社会にでたら、なにもできない。研修を受けても理解ができないし、難しい内容になると頭の中に入ってこない。ビジネスマナーの研修でお辞儀の角度とか言われても、どうしてそれが必要なのかわからない。本当に情けないし、苦しいし、いつまで経っても、そんな状態が続いています」

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