必死に働いて上位生徒に追いつくために課外レッスンを受けても、上位生徒は江美子さんが働いている間に練習をしている。やっとお金を作って課外レッスンを受けても、その間に上位生徒は留学に行っている。差は広がるばかりで、江美子さんの成績は上がるどころか下がった。だんだんと精神が病んでいった。
「まわりと自分を比べて、自分が誰だかわからなくなった。大学2年生以降になると点数と順位が出る。自分はこの位置にいるってわかって、才能があったり、優秀な子は先生に可愛がられる。けど、そうじゃない子は相手にされない。そんな現実を受け入れられなかった。オペラ歌手になりたくて大学に行って、こんな実力しかないって現実と理想との折り合いがつかなくなった。それでおかしくなった」
教授に相談に行ったら…
どうして成績が伸びないのか、実力がつかないのか。悩みが限界に達したとき、担当教授に相談に行った。実技の授業“作曲者の気持ちを掴め”という意味がどうしてもわからなかった。教授はオペラ界で知られる中年男性で、厳しい指導で有名だった。
「教授に裸になれって言われて、服を脱いでカラダを触られた。このことを誰かに言ったら、お前を退学にさせるって言われました。脱げって言われて脱ぐしかなくて、その人はオペラ界に顔が利く。大学生だから噂でも鵜呑みにしちゃう。どうしてもオペラ界に入りたかったから従うしかなかった」
この事件は江美子さんのトラウマとなっていた。このときの情景が「今でも夢にでてきます」と言っている。教授のしたことはセクハラでアカハラだが、彼女は教授の目的がセクハラなのか、指導なのか、わからない段階で出ていってしまっている。
事件以降、教授は江美子さんをいっさい気に掛けなくなった。大学で肩身が狭くなり、途中で放棄してしまったので教授の真意もわからない。全裸にさせられたのは、セクハラではなく、本当は指導だったのかもしれないと混乱した。成績が上がらないだけでなく、大学での居場所もなくなって、深く悩んでいるうちに精神的な負担が大きくなった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら