【治らない副鼻腔炎】実は指定難病、嗅覚低下も 20歳以上で発症、新薬の登場で劇的な回復期待

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「しかし、2020年3月に登場した生物学的製剤のデュピルマブという薬により、劇的な回復が期待できるようになってきています」

生物学的製剤とはバイオテクノロジー(遺伝子組換え技術や細胞培養技術)を用いて製造された薬だ。特定の分子を標的とした治療に使われる。

副鼻腔炎になると炎症反応によって、さまざまな物質が産生される。このうち、IL-4(インターロイキン-4)、IL-13(インターロイキン-13)が強く病態にかかわっているとされており、生物学的製剤はこのIL-4とIL-13を標的にして、働きを抑える。

「薬は皮下注射で2週間に1回、投与します。副鼻腔や鼻の奥の粘膜の炎症を抑えることにより、効果を発揮します」(寺田さん)

治療で失われた嗅覚が戻る!

鼻茸が小さくなると、鼻づまりが解消される。それだけでなく、寺田さんが驚いたのは、この薬の嗅覚障害に対する極めて高い効果だ。

「20年、30年もの間、においがほとんどわからなかった人が、コーヒーやワインの香りが感じられるようになった、と言う。『生きる喜びを取り戻しました』と話す人も多く、なかには完全に嗅覚が回復された人もいらっしゃいます。これは手術やステロイド薬の治療では得られなかった効果なのです」

寺田さんによれば、同じ耳鼻咽喉科領域の臓器でも、聴こえにかかわる「聴神経」はダメージを受けると再生が困難なのに対して、においをつかさどる嗅粘膜の神経は、再生能力が高いことで知られている。長年、においを感じられない人も、よくなる可能性が期待できるわけだ。

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なお、デュピルマブは手術をしても鼻茸が繰り返し出てくるケースで、好酸球性副鼻腔炎のうち、指定難病の対象となる中等症、重症に使える薬となっている。条件に当てはまる場合は現在のところ、公費負担となっている(指定難病患者への医療費助成制度)。診断書のほか必要な書類を都道府県に申請し、審査を受けて受理された場合に、医療費受給者証が交付される。

「好酸球性副鼻腔炎は耳鼻咽喉科の専門医であれば、診断ができる病気です。ただし、診断には鼻咽腔内視鏡カメラが不可欠ですので、疑わしい場合は、検査機器を備えている医療機関を受診しましょう」

(関連記事:【鼻づまり】長引くグズグズ「副鼻腔炎」が原因?

(取材・文/狩生聖子)

大阪医科薬科大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室准教授
寺田哲也医師

1992年、大阪医科大学(現・大阪医科薬科大学)卒。同大耳鼻咽喉科学教室入局後、京都民医連中央病院耳鼻咽喉科医長、アメリカ留学などを経て、2007年、洛和会音羽病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科部長。2015年から大阪医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室准教授。専門は免疫アレルギー、副鼻腔疾患、頭頸部腫瘍疾患。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本アレルギー学会指導医、日本がん治療認定医。日本鼻科学会認定手術指導医
東洋経済オンライン医療取材チーム 記者・ライター

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