まずは大伴宿祢がこんな歌を贈る。
(休まず眉をとにかくかいてるのに、全然きみに会えないなあ)
実は奈良時代、おまじないのように、「眉がかゆくなると好きな人に会える前兆」だと信じられていた。そういうジンクスがあったことを逆手にとって、「ずっと眉がかゆいし……そろそろ会えるんじゃないかな、会いたいなあ、とあなたを思ってずっと眉を掻きまくっている」と詠む大伴宿祢。ちょっとギャグの精度が低く、おじさんっぽい歌のようにも思うが、くすりと笑えるラブレターではある。
浮気をとがめるのも直球!
それに対して、坂上郎女はこんな歌を贈っている。
(私とは結局実がならなかったけれど……私の恋人らしいと噂されたあなたは、今誰と寝ているのかしら?)
直球の歌だ。以前、あなた、私の噂が立ってたけれど、結局そういう仲にはならなかったよね……「で、今あなたは誰と寝てるの?」で締める坂上郎女。浮気をとがめるにしても、はっきりすっぱり。眉をかいて会いたいなぁって思っている、とあなたは言うけれど。今はあなた、ほかの人と結局寝てるんでしょ? と直球で返している。宿祢の苦笑が見えるようだ。そして「忘れ草」の和歌に比べると、直接的で、カラッとした歌である。
宴会の歌だったと言われているから、おそらく男性側が「会ってくれないけどめっちゃ好き!」というノリをうまい歌にのせて言ってみて、それに対して女性側が「会ってないでしょ、誰とおるん?」とぴしゃりと返す……という笑えるやりとりだったのではないか。
和歌というと、日本の伝統を汲んだクラシカルなもの、と思われがちだが、万葉集が生まれた奈良時代は女性の立場が意外と強かったり、まだひらがなが発明される以前の漢字で遊んでいたりした時代の名残がよくわかる。今の時代に読み返してみると、新しい発見がある名著なのである。
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