月は、地球上に生命活動を営む人類にとって最も身近な天体だ。東西南北の人々を照らし続けるだけでなく、ときに人類の想像力を掻き立てる。実際、さまざまな作品の中で、たびたび登場する重要な要素として取り上げられてきた。
日本では、月は古代から愛され、和歌、俳句や数々の物語に現れるばかりではなく、新月、三日月、上弦の月、朧月、清月、雨月、薄月、霽月など変わりゆく様子をとらえた呼び名がたくさんある。その語彙の多さこそが人々の月に対する想いの深さの証拠だ。
そして、月のその魅惑的な引力について考えるとき、『竹取物語』を思い浮かべる人は少なくないだろう。あの物語ほど、月の謎を最大限に表現している作品はない、などと夜に洗濯物を干しながら物語の世界へと引き込まれていく私(もはや洗濯物はそっちのけ)……。
ラスボス「帝」にだって手加減はしなかった
以前、『竹取物語』(作者不詳)について書いたとき(「かぐや姫」に隠された恐怖の裏ストーリー)は、前半で展開されるユーモアたっぷりの求婚者たちへの難題や、作者不詳の当時の権力者の描き方に感心するあまりに、かぐや姫の冷酷な側面しか紹介していなかった。姫へのお詫びの気持ちも込めて、今回は物語の中に見え隠れする愛と思いやり、情けと情熱を探ってみたい。かぐや姫は月と同じように、静かで美しい顔と、ちょっぴり怖い顔を両方持ち合わせている魅力的な人物だからだ。
作者不詳の抜群なギャグセンスが思う存分発揮されている前半は完成度が非常に高く、後半への期待値はがぜん高まる。かぐや姫のキャラクターも物語が進むにつれ輪郭がハッキリとしてきて、しっかりとしたパーソナリティのある女性として描かれていく。
後半の見せ場はなんといってもラスボスこと、帝が登場である。ほかの求婚者に関して手加減を一切しなかった作者不詳だが、さすがに帝となると滑稽な姿にするわけにはまいりませぬ。とはいえ、5人の求婚者とそれほど描き方が異なるわけでもなく、かぐや姫の反応は以前に比べて少し優しめとはいえ、権力に屈する素振りをみじんも見せていない。
ほかの求婚者同様、うわさだけですでに興味津々、情熱が燃え上がる帝。しかし、まさか障子のすき間から女性を覗きに行くわけにもいかないので、内侍司という役所の高級女官に命じて様子を見に行ってもらうことに。数々の男性を貶めて笑い物にしてきた、謎に包まれた絶世の美女を自分のものにするチャンスがすぐそこに……とうっとりする帝。しかし、そう簡単にはいかない。
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