2005年に日本にやってきて以来、かれこれ13年の月日が過ぎ去ってしまった。イタリアから共にやってきた真っ赤なスーツケースは20キロ――当時の私の体重のちょうど半分――で、気づかないうちに母が忍ばせておいてくれたスパゲッティを含め、全財産だった。
しかし、今や下駄箱を開けても、キッチンの収納スペースを開けても本が出てくるわが住まい。「旅人は身軽なほど遠くまで行ける」というが、今の私には無理……と思っていたら、突然長期出張のお達しが出た。滞在先は殺風景なマンスリーマンションだけれど、久々に旅気分を味わえる!と、同時に、ある悩みが浮上した。こんなときは、どんな本を持っていくべきだろう……。
お供に選んだのは『枕草子』
結局、今回旅のお供に選んだのは、清姐さんの名言集、インスタ映えしそうな生活がきらびやかにつづられているオシャレバイブルこと、『枕草子』。清姐さんの言葉という強力なフィルターにかけられたものはなんだって宝石のように潤沢で特別な輝きを放つ。読み古したマイ『枕草子』のページをめくってみると、早速、殺風景な部屋に沈んでいる私に、1000年前からのエールが届いたような気分に……。
173段「女の一人住む所は……」
女性の一人暮らしの部屋は、ひどく荒れ果てて、土塀とかは欠けているところがあって不完全で、池があるところなら水草が生えたりして、庭とかもヨモギがぼうぼうになっているとまでは言わないけど、所々砂利の中から青草がちらっと見え隠れする程度、わびしさがちょっぴりにじみ出ている感じがすごくカッコよくてすてきね。いかにも合理的に物事が整然とされていて、門も固く戸締りして、すきがないような感じは嫌なのぉ~。
「池も水草に埋もれたれば、いとけうとげになりにける所かな(池も水草に埋もれていて、ちと怖いところだな~)」というのは、源氏の君がゾッコンになったか弱い夕顔の住まいの様子だ。周りの風景がめちゃくちゃだったからこそ、かわい子ちゃん、夕顔の可憐さがさらに際立ったように、空間が1つの小道具として物語の中で機能している。
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