105段 見苦しきもの
色黒で、ウィッグをつけたブスな女と、ひげがもじゃもじゃで、ガリガリにやせこけた男性が、夏に一緒に昼寝をするのは、目も当てられないわ。いったい何の目的で真っ昼間からいちゃついているわけ。夜なら、お互いの顔も見なくて済むし、皆寝ることになっているので、ブスだからってずっと起きているばかもいないしさ。
その様子がくっきりと描かれているこの段は、だらしない2人が目の前にいるようで、眼を逸らしたくなるぐらいゾクッとくる。
昔の世界においては「見る」という表現は特別な意味を持っていた。男女がお互いに顔を見ることができないという決まりになっていたので、姿を垣間見る瞬間は、恋の始まりを決定的に方向づける、非日常の一コマだった。だからこそ完璧でなくてはならない。本来であれば、つかもうとしてもつかみきれない、謎めいた魅惑的な雰囲気が漂うべきだが、それが暑苦しい夏の昼間という設定になった瞬間、完全に台なしになる。そして、清姐さんの辛辣な筆はとどまるところを知らない。
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