ブスと下衆が「枕草子」に出まくる深い事情 清少納言がぶった切ったのは誰だったのか

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105段 見苦しきもの

色黒うにくげなる女の鬘したると、髭がちに、かじけ、やせやせなる男と、夏、昼寝したるこそ、いと見ぐるしけれ。何の見る甲斐にて、さて臥いたるならむ。夜などは、容貌も見えず、また、皆おしなべてさることとなりにたれば、我はにくげなりとて、起きゐるべきにもあらずかし。
さてつとめては、とく起きぬる、いと目やすしかし。夏、昼寝して起きたるは、よき人こそ、今すこしをかしかなれ、えせ容貌は、つやめき、寝腫れて、ようせずは頬ゆがみもしぬべし。かたみにうち見かはしたらむほどの、生ける甲斐なさよ。
【イザ流圧倒的意訳】
色黒で、ウィッグをつけたブスな女と、ひげがもじゃもじゃで、ガリガリにやせこけた男性が、夏に一緒に昼寝をするのは、目も当てられないわ。いったい何の目的で真っ昼間からいちゃついているわけ。夜なら、お互いの顔も見なくて済むし、皆寝ることになっているので、ブスだからってずっと起きているばかもいないしさ。
そして寝て朝早くぱっと起きるというのはいちばんいいよね。夏、昼寝した後に起きると、身分が高い人だったらまだ少しキュンとくるところもあるけど、ブスなら、顔が脂ぎって、目がぼてっと腫れて、最悪の場合、ほっぺたに跡がついてラインが崩れていることだってある! そんな姿になっている男女が見合わせた場面なんて、死んだほうがまし。

その様子がくっきりと描かれているこの段は、だらしない2人が目の前にいるようで、眼を逸らしたくなるぐらいゾクッとくる。

昔の世界においては「見る」という表現は特別な意味を持っていた。男女がお互いに顔を見ることができないという決まりになっていたので、姿を垣間見る瞬間は、恋の始まりを決定的に方向づける、非日常の一コマだった。だからこそ完璧でなくてはならない。本来であれば、つかもうとしてもつかみきれない、謎めいた魅惑的な雰囲気が漂うべきだが、それが暑苦しい夏の昼間という設定になった瞬間、完全に台なしになる。そして、清姐さんの辛辣な筆はとどまるところを知らない。

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