フクシマの教訓を置き去りに進む原発再稼働の今 マジックワード「バックフィット」の正体
2011年3月、福島第一原発事故で日本の原発は終焉を迎えたかに見えた。
大津波の襲来という知見が事前にあったにもかかわらず、規制当局は運転継続を黙認して過酷事故が発生。安全神話に依存していたため防災体制はないに等しく、住民避難は混乱を極めた。
そして国内の原発はすべて停止し、「原子力ムラ」は沈黙した。国民は学んだはずだった。
だが、「懺悔の時間」はあっという間に終わった。あれから10年以上が経ち、ハリボテの安全規制と避難計画を看板に、「電力不足」キャンペーンのもと進められる原発再稼働。その実態を、丹念な調査報道で告発した『原発再稼働 葬られた過酷事故の教訓』著者による最新リポート。
*部署名・肩書は取材当時のものです。
(初出:集英社新書プラス)
原発再稼働や新増設、新型炉の開発の方針
岸田文雄首相は2022年夏、ロシアのウクライナ侵攻などに伴う「エネルギー危機」を背景に、原発再稼働や新増設、さらには新型炉の開発にまで乗り出す方針を明らかにした。
この報道を受けて、「ああ、東京電力福島第一原発事故が起きてからずっと停まっていた国内の原発を再稼働するんだな。原発再稼働は嫌だけど、電気が足りないなら仕方がないかな」と感じた人も多いだろう。だが、それは誤解だ。言葉は悪いが、だまされていると言ってもよい。
なぜなら、運転を指示したとされる計16基はすべてフクシマ後に策定された新規制基準による安全審査に「合格」済みで、このうち9基はすでにいったん再稼働した原発だからだ。
安全審査を担う規制委(原子力規制委員会)に対して合格を出すよう促す、あるいはすでに合格済みの原発の再稼働を了解するよう地元自治体に求めるという話ではない。電力確保のアピールにかこつけて、すでに進行している再稼働を改めて正当化しただけの話だ。
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