フクシマの教訓を置き去りに進む原発再稼働の今 マジックワード「バックフィット」の正体

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規制委が1年にわたって現地調査も交えて検討した結果、2018年11月21日の定例会合で過小評価を認めた。直後の記者会見で、更田委員長が「新知見」であることをアピールしたのは、安全審査における文献の見落としを糊塗したようにも見える。

ところで、定例会合に先立って行われるこの会議は、関係者の間で「委員長レク」と呼ばれており、一般に公開されていない。それどころか存在自体が明らかにされていない。フクシマにおいて原子力業界における産官学の不透明な関係に批判が集まったことから、新たに発足した規制委は「会議の公開」を原則に掲げ、毎週水曜日の定例会合(公開)ですべての意思決定を行うとしていた。だが、多いときには1回の定例会合で5、6項目を決定するのに、週1回2時間ほどの定例会合で議論を尽くせるはずもない。定例会合に至るまでの間に「意思決定過程」が存在するのは自明のことだったが、規制委はいっさい明らかにしていなかった。

2019年4月5日、規制委は自発的に設置変更許可申請をするよう求めたが、関電はこれを拒絶した(写真:集英社新書プラス)

問題の会議に話を戻したい。出席者に配られた資料には、関電原発の火山灰問題の対処法として、新たな層厚想定を書き込んだ原子炉設置変更許可申請を出すよう関電に行政指導する案(①文書指導案)と、まずは火山灰の層厚を再評価するよう関電に命じる案(②報告徴収命令案)──の2つの案の手順が併記されていた。「指導」と「命令」なので、一見すると②案のほうが関電に厳しいようにも見えるが、再評価の結果、関電が自発的に設置変更許可を申請すると見込んでおり、最終的に安全審査をやり直すのは両案とも同じだった。

「停めたくない」本音

この資料を見た更田委員長は「これを見たときに①のほうがすっきりするんだけど、法務上難しいんだろうなというのは私にもわかるので、まず、そちらの見解を聞かないと」と、検察庁出向の法務担当者に尋ねた。法務担当者は「(関電が)設置変更許可申請をするということは、災害の防止に支障があると外部に示すことになり、ただちに適合させる義務が生じやすい。②のほうはサイト(原発)に影響するかわからないポジションに立つので整合性がある」と、更田委員長の見立てに沿う答えを返した。

自らの意図が通じたからだろう、少し得意気に更田委員長が続けた。

「いずれにしても差し止め訴訟を起こされる可能性があるわけだ。訴訟だと基準不適合だという論理を生みやすい。基準をそこのナチュラルハザードに耐えることって書かれちゃっているから無理、難しいんだろうね。変更許可申請を求めるってことは、変更許可に不備があるから直せってことになる」

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