フクシマの教訓を置き去りに進む原発再稼働の今 マジックワード「バックフィット」の正体

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原発再稼働の道を選ぶ場合、再び動かさない以外のフクシマの教訓を原発行政に反映させることになる。それは事故を未然に防ぐ安全規制の強化と、仮に事故が起きても被曝を最小限に抑える防災体制の整備──の2つだ(ここでは両者が論理的に矛盾していることには触れない)。この2つを落とし込んだ制度が、新たに発足した原子力規制委員会と安全審査の「合格ライン」である新規制基準、そして対象範囲を原発から30キロ圏まで広げた避難計画を中核とする原子力災害対策指針(防災指針)となる。

福島第一原発事故の発生から4年5カ月後の2015年8月、新規制基準による安全審査に合格し、避難計画の策定を済ませた九州電力川内原発1号機が再稼働した。その後、ほかの原発も次々と再稼働していった。

だが、実はフクシマの教訓によって生まれ変わった規制と防災の新制度がハリボテにすぎず、安全神話に依存していただけの事故前と基本的に変わらないとしたらどうだろう。このまま再稼働を進めていいのだろうか?

8月に発刊した『原発再稼働 葬られた過酷事故の教訓』は、フクシマの教訓を生かしたふりをして、国民を欺いて進む原発再稼働の真相を暴露する詳細な記録である。

取材のきっかけは「秘密会議」の録音

フクシマ後の安全規制について取材を始めたきっかけは、ある会議の隠し録音が私の元にもたらされたことだった。

2018年12月6日午前11時。東京・六本木にある規制委の委員長室に、更田豊志委員長、石渡明委員、原子力規制庁の安井正也長官と荻野徹次長ら幹部が集まり、会議が始まった。議題は翌週12日の定例会合(公開)で決定する予定の関西電力3原発(美浜、大飯、高浜)の火山灰問題への対応方針だった。

関電の3原発は2017年までに安全審査に「合格」した。だが過去の文献資料を基に、大山(鳥取県)の噴火を対象とした関電の火山灰想定を過小評価だと指摘する意見が、国内の火山研究者から寄せられた。簡単に言うと、安全審査とは電力会社が当該の原発で生じうる自然リスクを設定し、それに耐えられることを証明する作業だ。想定を超える火山灰が降れば、外部電源の喪失後に原子炉の冷却機能を支える非常用ディーゼル発電機のフィルターが目詰まりを起こし、機能不全に陥る可能性が生じるというロジックになる。もちろん具体的なリスクも問題だが、役所にとって重大なのは、自然災害の想定リスクが引き上がった場合の規制のあり方というのは、福島第一原発事故と同じ問題であることだった。

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