フクシマの教訓を置き去りに進む原発再稼働の今 マジックワード「バックフィット」の正体

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だが、ここで規制委にとって予想外の事態が起きた。関電の担当者が「この規模の噴火の可能性は十分低いと考えており、再申請する必要はないと考えています」と答え、規制委の要求を拒否したのだ。

そのため規制委は5月29日、設置変更許可申請をするよう関電に命じる方針を示した。この際も「大山は活火山ではなく、差し迫った状況にはないのでただちに運転を停止させる必要はない」として、やはり運転停止は求めなかった。先に「停めない」と言明してしまったため、関電が強硬姿勢に出てきたからといって方針を変えるのは難しい。要は「自縄自縛」に陥ったのだ。

この通称「バックフィット命令」は、改正原子炉等規制法で新たに盛り込まれた条文で、規制当局が基準不適合と認めた場合に、運転停止や修理といった安全対策を電力会社に命じることができる規定だ。

この関電原発の火山灰問題がバックフィット命令の初適用だったが、発表文にその記載はなく、同日午後にあった更田委員長の定例記者会見でも触れられることはなかった。むしろ初適用であることを伏せるかのように今回の対応をこう自画自賛した。

「(規制委は)これまで、引き上げられた要求水準にフィットしてくれというバックフィットはいくつも進めてきた。今回は新たな知見に基づく要求への適合を求めるという状態が生まれた。明確でわかりやすい手法を取るべきだろうということで、設置変更許可が必要だという判断をした。いちばんわかりやすいのは命令。バックフィットは福島第一原発事故に対する反省から生まれたもので、地震・津波・火山(噴火)といった自然現象で新しい知見が得られて、その脅威が従来考えられていたものよりも厳しいと認定した場合には、設計に対して変更を要求していくというのは改正された法律(原子炉等規制法)の精神にのっとったものだ」

バックフィットとバックフィット命令

バックフィット命令の初適用なのに、なぜ更田委員長は「いくつも進めてきた」と話したのだろうか。この「バックフィット」と「バックフィット命令」の違い、いや使い分けこそが、生まれ変わったはずの原発規制の本質を読み解くカギだった。

「バックフィット命令」は2012年6月に成立した改正原子炉等規制法で新たに導入された。細野豪志原発事故担当相は改正に先立つ記者会見で「バックチェックという新たな規制を設けても、過去の原子炉は継続して動かされてきた。その制度は根本的に改まる」と述べている。また法改正直後の国会で、経済産業省原子力安全・保安院の山本哲也・首席統括安全審査官は「現行の法律は基準不適合が判明しても使用停止や許可の取り消しができる規定がない。今回の法改正で、最新の知見に基づく新たな基準への適合を義務付けるバックフィット制度が導入される。新たな制度では使用の停止や設備の改造、場合によっては許可の取り消しもできる」と答弁している。

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