フクシマの教訓を置き去りに進む原発再稼働の今 マジックワード「バックフィット」の正体

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この段階ではまだ規制委は発足しておらず、新規制基準も施行されていないが、再稼働しなければ運転を停める必要はないのだから、この法改正の延長線上に再稼働があるのは言うまでもない。

細野、山本両氏の発言からは、「基準不適合」の状態にあるのを認識しながら、運転を停める法的権限がなかったために福島第一原発事故を防げなかったと釈明する意図が垣間見える。少し意地悪く言えば、過酷事故を引き起こした原因を規制の不作為ではなく、法の不備にすり替えたようにも見える。

いずれにしても、地震や津波、火山噴火など自然災害に関する新知見が出てきて、既存の許可内容では事故を防げなくなる恐れが出てきた場合、つまりはフクシマのような基準不適合の状態が生じた場合に、今度は運転を停めて安全対策を取るというのだから、フクシマの教訓を生かす新制度のはずだ。

規制庁広報室の回答

ところで新規制基準をクリアした原発の再稼働が始まってからすでに5年(取材時点)。前述したように、関電の火山灰問題が初めてのバックフィット命令だった。それでは、「命令」が付いていない「バックフィット」とはいったい何だろう。「バックフィット」の定義を尋ねたところ、規制庁広報室から以下のような回答が返ってきた。

「新たな知見に基づく新たな規制を既存の原子力施設にも適用する行為をバックフィットと呼んでいます。新たな技術・知見を踏まえて現行の基準を適用する場合や、新たに定められた基準を適用する場合があります。基準の適用にあたっては、対象となる施設が合理的期間内に新たな規制に適合することが担保されれば足りるので、経過措置として一定の猶予期間が設定されます」

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