社会で生きていくうえでは、大学を出てレールに乗ることが大切……両親はそう感じていたのだろうが、ネトゲに夢中な木原さんの耳には届かなかった。大学進学後も状況は変わらず、1日の平均プレイ時間は14時間という中毒ぶりでゲームに打ち込み、大学2年に至るまでの約4年間で100万円以上を課金したという。
まさに人生の夏休み的生活を謳歌していた木原さんだったが、大学2年の前期に大学の掲示板で、交換留学生の募集を見つけたことが大きな転機となる。
「周りの人間関係や自分の将来を考えて、ネトゲを断ち切ろうと思い、中国への交換留学の説明会に行きました。『留学すれば強制的にまったく違う人生なるかもしれない』という期待感だけで、とりあえず日本から脱出しようと」
このままネトゲにハマっていていいのか……という葛藤は、彼も持っていたらしい。
本来、大学の交換留学には一定の語学力が求められるが、折りしも当時は「段ボール肉まん」「冷凍ギョーザによる食中毒事件」など、中国産食品のバッドニュースが世を騒がせていた頃。木原さん以外に希望者がいなかったという幸運も重なり、すんなり上海に程近いところにある、蘇州大学への留学が決まった。
「私自身はネトゲさえプレイできていれば満足で、ネトゲに対してネガティブな思いや、それを断ち切る強い決意が正直あったわけでもないです。ただ、説明会で『ぜひ、お願いしたい』と言われて、頷けば留学できるという状況だったので。『留学する道もアリ』という感じでした」
中国行きが決まった後も中国語や土地勘はゼロのまま。出発の3時間前までネトゲをプレイし、1時間で荷造りを整えて空港へ向かったそうだ。
カルチャーショックを受けて語学の勉強にハマる
かくして始まった留学生活で木原さんは語学の勉強に覚醒し、ネトゲ断ちに成功。クラスを2回飛び級し、1年間で2年半分の課程を修めたというから、ゲーマーのバイタリティーや集中力は侮れない。
「とりわけ中国人女性と交際したことが語学の上達に効きましたね。まだまだ自分の語学レベルが低い状態で付き合い始めたんですが、彼女がほかの友達と私以上のコミュニケーションをとれている状況って、やっぱり悔しいもんで。自然と勉強も頑張るようになりました。英語と同じでネイティブとの会話って難易度が高いので、最初の頃はあまり日本人とは現地でつるまないようにして、中国語でコミュニケーションできる留学生同士でよく会話するようにしていました」
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