つまり、審査員が料理を食べることはできないわけで、勝負の行方は見た目の美しさ、斬新さ、インパクトと、説得力のあるレシピにゆだねられるわけである。動画も重要で、動画では各国の独自性だけでなく、ボキューズ・ドールをいかに世界に普及させるかというプロモーションの観点も必要だったようだ。締め切りは6月15日。つまり、各国は2カ月弱でそれらを仕上なければならなかった。
肝心なテーマは「豆腐」。アジア大会ならでは、といえる題材であると同時に、ビーガンやマクロビなどのニーズの高まり、環境問題への影響などが配慮されてのことだろう。豆腐がテーマであると同時に、動物性の食品(乳製品は除く)の使用も不可というのがルールだ。
アジアの中でも豆腐を食べる国、食べない国がある。生まれたときからあたりまえに豆腐を口にしてきた日本人にとって、そうした素材を正面切ってフランス料理に仕立てるのはある意味、難題でもある。当然のことながら、豆腐単体の冷や奴では、土俵にのれない。たとえ、どれだけ美味しい豆腐であっても。
豆腐にとって最高の「相方」は?
そこで、石井友之氏は、豆腐に何を組み合わせるかという、食材のコンビネーションにまず主眼をおいて、一皿の構築への道のりを模索し始めた。
まず、県のアンテナショップで各地の豆腐を購入し、キッチンにありとあらゆる野菜を並べ、スタッフ全員で端から豆腐と組み合わせて試し、豆腐の相方として適性があるかを見極めていったという。
結果、選ばれたのは茸類だった。冷奴に茸をのせて食べることはまずないが、鍋の具材を考えれば、豆腐と茸類の相性は自明の理である。同時に、日本では、茸は秋の食材のイメージが強いが、フランスは、夏茸として、セップ、ジロールなどが好んで食べられる時期でもあるので、その点も考慮したのかもしれない。
相方が決まった時点で、あたりまえすぎる食材である豆腐そのものをもっと勉強したいと、知人の紹介で、逗子で豆腐店を営んで90年の老舗「とちぎや」を訪れた。石井氏は言う。
「市販の豆腐だと、どうしても茸に負けてしまうのと、加工がしいくいため、自家製の豆腐を作ろうと思ったのですが、市販の豆乳は大豆の固形分が14%くらいまでしかなく、困っていました。ところがそこで飲ませてもらった豆乳はなんと20%以上。その濃厚さとまろやかさに、感動しました」
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