「そこでこの豆乳を送ってもらい、自家製の豆腐を作ることに即決しました。同時に、豆腐そのものに茸の香りをつけることを考えました。豆乳にセップ茸とにがりを加え、真空にして、40℃で20分間加熱。その後1~2時間おき、さらによく水気をきって、かための豆腐に仕上げるわけです」(石井氏)
こうして土台となる豆腐が完成したものの、そこから一皿に仕上げるまでには、紆余曲折があった。写真による審査ということは、あたりまえだが、試食することができないわけだから、見た目のインパクトや美しさ、いかに緻密に構成された一皿であるかということが重要なポイントになっている。真っ白な豆腐にスプーンを入れると中が複雑に構成されているというのでは、写真では伝わらない。
そんな観点をふまえ、試作の過程では、過去にボキューズ・ドールに出場し、3位入賞を果たした浜田統之氏(現星のや東京総料理長)、前回大会に出場した長谷川幸太郎氏(コウタロウ・ハセガワ・ダウンタウン・キュイジーヌのオーナーシェフ)から、「こんなんじゃ、アジアで落ちるぞ」という厳しい声が何度も飛んだという。試行錯誤の末に出来上がった一皿は、豆腐と茸の美しい層がアーチをなして重なり、数種の付け合わせが華やかさを盛り上げる、精巧にしてインパクトのある仕上がりだ。
どんな料理が出来上がったのか
写真撮影(6月10日)の前日に、今のままではだめだと思い立ち、合羽橋へ行って樋型を買い、試してみて、ようやく納得のいくものが出来上がったそうだ。残念ながら、アジア・パシフィック大会の発表までは完成した作品の写真をお見せすることはできないが、その料理がどんなものであるか、解説してもらおう。
「樋型の中に薄くスライスした自家製の豆腐を敷き、トリュフのシートをのせ、また豆腐を重ね、次にジロール茸のペーストを塗り、また豆腐をのせるというように、豆腐と茸を層にし、表面だけを凍らせてカットしたものが、メインとなるアーチ型の豆腐です。
浜田さんに、まず、中心にくる美味しい豆腐を完成させてから、変化とアクセントをつけるための付け合わせを考えるようにと言われ、周囲に数種の付け合わせを配しました。燻製をかけたサントモール(山羊のチーズ)の上に絹ごし豆腐のピューレを絞り、キヌアを散らしたものや、青りんごのジュースを流したタルトにパースニップのピューレを絞り、グリーンピースをあしらったもの、黒にんにくを詰めたモリーユ茸を詰めた酒でからめたものなどです」
華麗なその一皿に、それだけの思いと手がかけられているのかと思うと頭が下がるが、メンターたちはこの作品はどう思っているのか聞いてみた。
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