印象派絵画の「残照」を描いた2人の画家のすごみ SOMPO美術館「シダネルとマルタン展」を味わう

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アンリ・ル・シダネル《ヴェルサイユ、月夜》(1929年 油彩、カンヴァス 95×116cm フランス、個人蔵 ©Yves Le Sidaner)

シダネルは、自身が見出したジェルブロワとパリ近郊のヴェルサイユで後半生の大半を過ごした。どちらも北フランスにある。ヴェルサイユを描くにしても、なぜ、おぼろ月の下で目を凝らしてようやく存在がわかるような噴水をモチーフにしたのか。シダネルが描きたかったのは、月光のほの明かりが暗闇の中で安堵感をもたらしてくれるような自身の心情だったのだろう。

アンリ・マルタン《マルケロル、秋の蔓棚》=左、同《マルケロルの池》=右(ともに1910〜20年頃、フランス、ピエール・バスティドウ・コレクション)の展示風景(撮影:小川敦生)

印象派の残照の味わい深さ

一方のマルタンは、1900年に南仏のラバスティド・デュ・ヴェールに邸宅を構え、パリで壁画を描く仕事などをしながらも、折に触れて滞在していたようだ。《マルケロル、秋の蔓棚》や《マルケロルの池》は、その地で描かれた。

同じフランスでも、北部と南部では随分光が異なり、南仏はまぶしいほどに明るい。その違いを二人の画家の作品で比べられるのは、展覧会の趣向としてはなかなか面白い。二人の仕事は、印象派の残照とでも言うべきものだろう。残照もまた、味わい深いものであることをしみじみと感じる展覧会だった。

小川 敦生 多摩美術大学教授

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おがわ・あつお / Atsuo Ogawa

1959年生。東大文学部美術史科卒。日経BPの音楽、美術分野記者、『日経アート』誌編集長、日経新聞文化部美術担当記者などを経て、2012年から現職。近著に『美術の経済』。

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