印象派絵画の「残照」を描いた2人の画家のすごみ SOMPO美術館「シダネルとマルタン展」を味わう

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アンリ・ル・シダネル《オーブリー、田舎の警備員》(左、1891年、個人蔵)、同《カミエ、砂丘の羊飼い》(右、1891年、個人蔵)の展示風景(撮影:小川敦生)
アンリ・マルタン《野原を行く少女》(=左の作品、1889年、個人蔵)の展示風景(撮影:小川敦生)

フランスの作家・詩人のアルフレッド・ドゥ・ヴィニーの詩に着想を得たというマルタンの《野原を行く少女》は、みずみずしさが目を引く作品だ。少女から生まれた色とりどりの花が背後に向けて帯状に散っているかのような描写は、ローマ神話に登場する花の女神フローラを思い起こさせる。

注目すべき点は、マルタンがこの作品で、屋外に降り注ぐ光を「筆触分割」に類する技法によって描き出そうとしていることだろう。マルタンには人間の内面の表現を旨とする「象徴主義」のもとで絵を制作した時期があり、詩に着想を得たことなどからこの絵はその例に数えられるのだが、同時に印象派の特質が表れていると見ていいのではないだろうか。

モネにもルノワールにもない境地

1930年前後のシダネルの作品には、印象派的な点描を効果的に使った秀作が多い。そのうちの一つ《サン=トロペ、税関》は、冒頭で挙げた《ジェルブロワ、テラスの食卓》と同様、画面手前の主要部分が心地よい日陰になっている。

アンリ・ル・シダネル《サン=トロペ、税関》(左、1928年、個人蔵)、同《ブリュッセル、グラン=プラス》(右、1934年、シンガー・ラーレン美術館蔵)の展示風景(撮影:小川敦生)

普通なら、奥に見える日当たりがいい風景を主役にするだろう。夜景は、さらに特徴的だ。《ブリュッセル、グラン=プラス》では、建物の明かりが実にほんのりとしたうるわしさを創出している。陰や夜景を描く際の絵の具のまぶし方が場をもやに包んだような効果を生み、そのもやに細かく反射する淡い光の描写が暖かさをにじませているのではないか。モネにもルノワールにもなかった境地である。その最たる作品が、《ヴェルサイユ、月夜》である。

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