ゼロコロナ政策の軌道修正
実は、国家衛生健康委員会は「ゼロコロナ政策」の軌道修正をはじめている。昨年12月には、ゼロコロナ対策は感染ゼロ(zero infections, zero tolerance)が狙いではなく、機動的に(dynamic)感染制御策をとることが重要なのだ、と主張し始めた。
こうした中で発生した西安の感染拡大と天津のオミクロン株市中感染、そしてロックダウンをめぐる混乱は、ゼロコロナ政策の終わりの始まりかもしれない。
人口1300万人の西安では昨年12月からデルタ株の感染が拡大し、1カ月で2000人以上の新規感染者が報告された。これは中国では2020年1月の武漢以来となる大規模な感染拡大であった。
12月23日、西安で事実上のロックダウンが始まった。食料の確保も困難になるほど厳しい行動制限が課せられた。ところが1月1日、妊娠8カ月の女性が、検査陰性証明の有効期限がわずか4時間ほど切れていたため診療を拒否され、氷点下のなか病院の外で待たされ死産してしまうという痛ましい事件が起きた。この悲劇に中国のネット上では行き過ぎた行動制限を非難する声が高まった。西安市衛生健康委員会のトップは女性への謝罪に追い込まれ、さらに関係者が処分されるに至ったが、市民の怒りは収まらなかった。
さらに、中国のゼロコロナ政策がグローバルサプライチェーンに影響を及ぼすという言説も世界に広がった。1月8日に中国で初のオミクロン株の市中感染が天津で検出されると、天津市トップの李鴻忠(り・こうちゅう)党委書記は、隣接する北京への感染拡大を防ぐ「堀を築け」と指示。天津にある自動車や半導体の日系企業の工場は、一時的な稼働停止に追い込まれた。
また、西安にはサムスン電子やDRAM製造大手のアメリカのマイクロン・テクノロジーなど半導体産業が集積している。サムスン電子もマイクロンも、西安のロックダウンにより生産や供給に支障が出かねないと発表した。米中の経済安全保障をめぐる戦略的競争において、もっとも熾烈を極めるのが半導体の確保合戦である。中国としては、半導体産業への悪影響は最小限に抑えたい。
1月24日、西安は新規感染者が減少できたとして、ロックダウンを解除した。
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