実はその直前、7月には中国でデルタ株の感染が急拡大していた。そのため上海の感染症専門家からはウィズコロナへの方向転換を示唆する声も上がっていた。そうした意見は、コロナとの共存を模索する西洋諸国に迎合するものだとして、封殺された。
ゼロコロナ政策という言葉が使われた3つの要因
中国がゼロコロナ政策という言葉を使うようになった背景には3つの要因が考えられる。
第1に、武漢モデルが中国のコロナ対策における標準的な方策となり、中国の閉じられた言論空間でその成果が反響し、増幅され、成功物語として語られるようになったこと。価値観の似た者同士で交流し、共感し合うことにより、特定の意見や思想が増幅されて影響力をもつ、いわゆるエコーチェンバー現象である。
第2に、国内向けに習近平体制の統治の正統性を高める宣伝として、わかりやすいキーワードが希求されたこと。
第3に、中国の対外宣伝で重視されてきた、国際的な「話語権」、すなわち言説の影響力を高めるため、である。
アメリカを筆頭に、欧州、日本など近隣のアジア諸国がたびたび新型コロナの「波」に苦しむなか、中国は感染制御に自信を深めてきた。中国はグローバルな言説空間で民主主義国家に覇権を握られてきたという思いが強い。話語権をめぐるグレートゲームで反転攻勢に出るべく、コロナ封じ込めに成功する中国というナラティブを世界中に発信しようとした。それはマスク外交やワクチン外交としてあらわれた。しかし、いくら「ゼロコロナ政策」を続けても、中国各地で散発的に感染が発生してきた。
コロナ対策の切り札になるはずだったのがワクチン接種である。昨年6月から7月にかけ、日本は菅義偉総理(当時)が掲げた1日100万回接種の目標を達成し、最大170万回ほどのペースで急速にワクチン接種を進めた。
同じ時期、中国は1日1000万回から最大2200万回以上という、まさに桁違いのペースで接種を進めた(Our World in Data)。しかし中国が接種したのは、世界で主流のmRNAワクチンに比べ予防効果で劣る中国産の不活化ワクチンであった。1月14日時点で12億人以上、中国国民の9割近くがワクチン接種を完了し、さらに3億人以上がブースター接種も受けたということだが、感染拡大に歯止めがかからない。
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