習近平政権が実現しようとする「中国の夢」、すなわち「中華民族の偉大な復興」とは「中華民族=中国人」の統合による近代的な国民国家の建設を意味している。当然、「中華民族」には、少数民族や香港、マカオ、台湾の人々も含まれる。2021年7月の共産党創立100年式典や同年11月に採決された「歴史決議」の内容からもわかるように、習近平国家主席は国民統合と祖国統一を歴史的任務と捉えている。
そうした背景の下で、昨今の新疆ウイグル自治区や香港での激しい弾圧、台湾統一を目指すとする姿勢は、習主席の強い決意の表れでもあるが、同時に不安と焦りを体現しているようにも見える。なぜなら、経済成長の鈍化と格差の固定化が顕著になる中、国内の社会矛盾は増大し、国際社会からの批判も高まっており、国民統合には難題が山積しているからだ。
固定化する格差
中国の貧富の格差は拡大し続け、固定化の傾向が顕著である。クレディ・スイスによると、2020年の上位1%の富裕層が持つ富は全体の30.6%で、2000年から10ポイント上がった。その一方、中国には6億人の平均月収が1000元(約1万8000円)前後の中低所得かそれ以下の人々がいると、李克強首相は2020年の全国人民代表大会閉幕後の会見で指摘している。
社会主義国でこれほどまでの格差が存在することは本来ありえないが、「先富論」で改革開放政策を進める一方、政治改革を抑制したつけが回ってきたのだと言える。市場経済の競争原理が不完全な形でしか導入されない中で、不動産や株式市場で儲け、先に豊かになった層が肥え続け、貧困層が上の社会階層に移ることは至難の業である。不平等・不公正な制度下で権力の濫用が深刻化し、富を創出する機会は既得権益層に集中している。
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