日本はかつて国際秩序を壊した
鈴木 一人(以下、鈴木):過去2回にわたり、ロシア・ウクライナ戦争の性質と国連の機能、戦争の抑止と経済制裁の効力について議論してきました。最終回の今回は、まず、戦争終結後の世界で予想される国際秩序の変動の中で、日本の果たすべき役割や進むべき方向について議論したいと思います。まずは歴史家である細谷さんに伺いたいと思います。
細谷 雄一(以下、細谷):日本には1930年代に挑戦者・破壊者となって国際秩序を壊したという歴史があります。それにより、周辺諸国に大変な被害を与えてしまったのと同時に、自らも甚大な損失を被りました。その経験から、敗戦後の日本は、国際秩序を守る側、支える側として役割を果たしてきました。ですから、経験者として、国際秩序を破壊することは、非常にコストがかかるうえ、好ましくない結果をもたらすのだと、デメリットについてロシアの理解を促す。これをすることが日本の役割だと思います。
神保 謙(以下、神保):岸田首相は、「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と述べ、ヨーロッパの危機の問題を自分ごととして捉えるべきだと発言しています。この指摘は重要だと思います。つまり、アジアの厳しい戦略環境の中にあって、ロシア・ウクライナ戦争を教訓として、抑止力を強化し、安定的な秩序形成のために力を注ぐということに尽きます。
今回、ロシアの経済制裁に加わったのは40数カ国に過ぎません。従って、その他の多くの国々との今後の関わりも重要な課題です。いまだ終結には至っていませんが、ロシア・ウクライナ戦争を教訓として、制裁に参加しなかった国々も加えた地域の秩序やグローバルな秩序を築いていくうえで、日本が新たなガバナンスのあり方を主導するイニシアティブを発揮できればよいと思っています。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら