ロシア・ウクライナ戦争後、日本が果たすべき役割 政策を検証し代案を示すのがシンクタンクの使命

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そうした歴史の中で、国際社会は先進国のダブルスタンダードに反発を強めてきました。先進国は綺麗ごとを言うけれど、結局は自己利益だけを考えて行動しているのではないか、偽善じゃないのか、という反発です。私は、国際社会における正当性や正義が、この30年で大幅に傷ついてきている現実を直視しなければ、今回のロシア・ウクライナ戦争と同じようなことが繰り返されてしまうと危惧します。

今回のロシアの戦争は、先進諸国の偽善に対するあからさまなアンチテーゼに見えます。つまり、「偽善」に対する「偽悪」です。「悪いことの何が悪いんだ」と、堂々と開き直ったロシアをグローバル・サウスの諸国が、私たちが想像する以上に同調、あるいは看過している現実を、私たちは真剣に受け止めなければならないと思います。

この状況を立て直すには数十年の歳月がかかると思いますが、立て直せなければ、本当にかつて世界大戦を引き起こしたような時代になってしまいかねません。日本はそれを立て直すうえで非常に重要な位置にいますから、アジア諸国との信頼関係を回復することを含めた課題は少なくないと思います。

鈴木:ロシアを支援する国々が存在すること、西側諸国の価値観は必ずしも国際社会の価値観と一致しているわけではないことは、重要な視座だと思います。グローバル・サウスから見れば、今回の戦争は、大国間の争いでしかなく、その結果、原油や穀物の価格が高騰して、アフリカでは食糧が不足するという事態が起こっています。

それに対し、「プーチンが悪い」とロシアを糾弾すれば国際社会が喝采するかと言えば、そうではない。少なくない国が西側諸国の制裁が悪いと見ている。それを認識することが、新たな国際秩序を形成するうえでは大切な視点であり、西側諸国だけではなくグローバル・サウスの国々も含めた国際社会が納得できるような、新しい価値観や発想、アイディアを提示できるかどうかが、今後の課題となると思います。

政策オルタナティヴの緊張感

鈴木:API設立10周年記念鼎談ということですから、最後に、シンクタンクの役割についても少し議論したいと思います。ロシアにアメリカやイギリスのようなシンクタンクがあれば、状況は変わったのではないか、つまり、甘い見通しに基づいた行動は防げたのではないか。

鼎談の1回目に、日本のシンクタンクの大半は政府系のシンクタンクであることに言及しましたが、日本でアメリカやイギリス並みの、民間のシンクタンクを育てるには、何が必要でしょうか。

神保:これは政治的にはセンシティブな問題ですが、政権交代を前提とする社会はシンクタンクを必要とします。社会が政策の選択肢(オルタナティブ)を求めるからです。同じ政党による政権が長期間続くと、官僚組織との調整で多くの意思決定が完結し、多様なステークホルダーが参加する政策のダイナミズムが働きにくい傾向があります。

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